誰にもオススメできないような映画を観てしまった。
第76回ヴェネツィア国際映画祭ユニセフ賞受賞作品…って事なのだけどR15+指定作品。「どうしても観たい」って方はグロ表現を覚悟の上で観て戴きたい。私は予備知識無しでうっかり視聴してしまった。
予告編だけ観ると「なるほど…迫害されたユダヤ人の苦難の物語なのね」とミスリードしてしまうけれど、そうじゃないから!
そんな生温い物語じゃなかった。
ヴェネツィア国際映画祭では途中退出者が続出した…ってくらいなのでグロ耐性がない人にはオススメしない。
今回はネタバレを含む感想になるのでネタバレNGの方はご遠慮ください。
異端の鳥
異端の鳥 | |
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Nabarvené ptáče / The Painted Bird | |
監督 | ヴァーツラフ・マルホウル |
脚本 | ヴァーツラフ・マルホウル |
原作 | イェジー・コシンスキ |
出演者 | ペトル・コトラール ステラン・スカルスガルド ハーヴェイ・カイテル ジュリアン・サンズ バリー・ペッパー |
公開 | 2019年9月12日 2020年7月2日 2020年10月9日 |
ざっくりとこんな内容
第二次大戦下の共産圏のある国。10歳ほどのユダヤ人の少年が片田舎の叔母の家に疎開していた。少年はユダヤ人狩りを恐れた両親が息子だけ田舎に疎開させたのだったが人々のユダヤ人差別は過酷で少年は一言も口を利かなくなった。
ある日、叔母が突然死んでしまう。叔母の遺体を発見した驚きから火事を起こしてしまい、焼け出された少年は方向も分からぬまま家を目指して歩き出した。
そして少年の苦難の旅がはじまる…。
エンドレス不幸!
「時代は第二次世界大戦。ユダヤ人少年の旅路」と言う設定だけ聞くと「なるほど。ユダヤ人の少年が迫害を受けながら辛い旅をする訳ですね。
ナチスドイツの非道さとか戦争の残酷さ、人種差別問題なんかを扱った意識高い映画ですね」と思いがちだけど、予想の斜め上を行く作品なので、視聴される場合は覚悟が必要。
『異端の鳥』の内容を箇条書きにすると、こんな感じ。
- グロ描写多めなのでグロ耐性必須
- 意識高い系と見せかけて実はそうでもない
- 思い付く限りの不幸を搭載!
- 幸せなんてどこにもない
1つ1つのエピソードは短編小説のような感じなのだけど、1つの不幸が終わったら次の不幸が襲い掛かってくるエンドレス不幸!
しかもそれぞれのエピソードは全部方向性が異なっている。人種差別、児童虐待、小児性愛の性被害…等、おおよそ現代でも起こるような不幸なエピソードを「第二次世界大戦下に生きるユダヤ人少年の経験」に全部盛りで突っ込んでくるのだから恐れ入った。
異端の鳥とは?
映画の邦題にもなっている「異端の鳥」は少年が小鳥を売買する老人の元で暮らしていた時のエピソードが元になっている。
ある日も老人は1羽の鳥の羽にペンキを塗って空に放つ。ペンキを塗られて仲間とは色が違ってしまった鳥は群れに戻った時に仲間から攻撃で死んでしまう。老人はその様を見るのが楽しみだった…って話。
羽にペンキを塗られた鳥はユダヤ人を示唆するものなのは誰でも分かる話。ここで面白いのは「鳥は自分達と違う様相の仲間を攻撃して殺す」という事実。
これは鳥だけでなく野生動物の中では実際にある現象とのことで「進化を妨げる可能性のある遺伝子を残さないぞ」って本能がそうさせるらしい。偏見ではなく本能がそうさせる…ってところが、なんか怖い。
少年を迫害する人間達
主人公の少年はどこへ行っても迫害され、暴力を受け、虐げられる。
だけど少年に酷いことをする人間は特別邪悪な人なのか…って言われると、そうでもないところが怖い。ごく普通の人達ばかりだ。
ロールプレイングゲームで言うなら「村人A」でしかない人間が非人道的なことする。そして彼らは「非人道的なことをしている」と言う意識がほとんど無い。
『異端の鳥』の本質はユダヤ人迫害云々の話ではなく人間の根本的なところ…もしかすると本能に近いところを問題にしているのだと思う。
- 自分のカテゴリーに属さない物は排除してOK。むしろ排除すべき。
- 自分より弱い物は虐げてもOK。
- 自分の欲望には忠実に従っていく。
……と。誰もが陥りがちなところを突っ込んでくる。そして少年自身も心清らかな存在かと言うと、そんな事もなくて少しずつ成長して生き残る術を学んでいく。
「それでも生きていかなきゃいけない」ってところは人間の…と言うか命あるもの全てに課せられたテーマなのだと思う。
『異端の鳥』はグロいし、胸糞悪いし、誰にもオススメできないけれど映画としては優れた作品だと思う。