松浦理英子の作品を読むのは『最愛の子ども』以来で5年ぶり。松浦理英子と言えば、ずっと前から第一線で活躍している印象があるけれど、作品数は意外と少ない。
1978年に『葬儀の日』で文學界新人賞を受賞しているので、ざっと44年も作家歴があるにも関わらず、現在小説として出版されているのは今回の『ヒカリ文集』を含めて9冊だけ。
松浦理英子はガンガン作品を生み出すタイプの作家さんじゃないだけに、新作を見つけると「ウォォぉぉー」とテンションが上がってしまうのだけど、今回の『ヒカリ文集』はファン視点から見て、ちょっぴり微妙な仕上がりだった。
ヒカリ文集
- 劇作家兼演出家の破月悠高は震災後、東北へ行き横死。
- 悠高の妻である久代は夫の未完成の遺作を発見する。
- 未完成の遺作は学生時代に夫妻も所属していた劇団NTRがモデルだった。
- 久代は劇団員だった仲間達に声を掛け、元劇団員たちがそれぞれ好きな形式で文章を寄せることになった。作品集のタイトルは「ヒカリ文集」。
- 劇団のマドンナであり、あるとき姿を消してしまった不思議な魅力を持った女性、賀集ヒカリの思い出が描かれてゆく。
感想
5年前に『最愛の子ども』を読んだ時、私は「松浦理英子は衰え知らずだ」と書いたのだけど、今回はまったく逆の感想を持ってしまった。「あれっ?松浦理英子、衰えてる?」と。
松浦理英子は作品を発表するペースは遅いけれど、毎回予想の斜め上を行く物を書いて、読者を驚かせてくれたものだけど『ヒカリ文集』にはそれが無かった。
ひとことで説明すると「なんだか、どっかで読んだような作品」って感じ。
大前提として物語の舞台が「劇団」って時点で「もしかして逃げに走った?」と思ってしまった。
小劇団って「ちょっと変わった人の集まり」なので「みなさん、個性的だったり変人だったりする」ってとこがあって、性的にもおおらかな感じ…ってベースがある。そして劇団の中心には「普通の感覚では計り知れない魅力的な人」が据えられる。
……小説にありがちな設定で、まったく新しさを感じなかった。そして第三者の目線だけで1人の人物を浮かび上がらせていく手法も特にどう…ってことはない。
なんだか小説の書き方のお手本を読まされている気分になってしまった。
そして1番イケナイのは「勢いとパワーが足りない」ってところ。テンプレートのような設定であったとしても、それを吹っ飛ばしてくれるような勢いとパワーがあれば良かったのだろうけど、最初から最後まで淡々としていた。
ヒカリのようなキャラ設定は嫌いじゃないけど、すでに使い古された感があるのだなぁ。
今回は残念だったので松浦理英子の次の作品に期待したい。次はまた5年後かそれとももっと先なのか…気長に待とうと思う。