あえてジャンル訳するなら幻想小説になるのだろうか。
「沙髙樓」と名づけられた秘密の集会で、参加者達が「自分のなかだけに留めていた話」をメンバーに話すという形式の連作短編集。
「沙髙樓」では決して嘘を言ってはならない代わりに、聞いた話は決して外に漏らしてはいけないというルールがあって、妖しげな雰囲気が漂っていて、大人の「百物語」という風情だった。
沙高樓綺譚
各地の名士たちが集う「沙高樓」。世の高みに登りつめた人々が、女装の主人の元、今夜も秘密を語り始める――。
やがて聴衆は畏るべき物語に翻弄され、その重みに立ち上がることもできなくなるのだ。
卓抜なる語り部・浅田次郎の傑作ミステリー。
アマゾンより引用
感想
幽霊譚あり、倒錯話あり、ちょっとしたすれ違いストーリーあり。
ものすごく面白い話もなかったけれど「流石は浅田次郎」と思わせるような作品だった。
ストーリー自体は大したことがないのだが、主人公達がポツポツと語る「人生感」がさりげなく良かった。
たとえば「人生は自分で切り開くというけれど、人生の岐路には必ず他人が立っていて、その人に引っ張られるようにして進むべき道を決められてしまう」というような話や、その他諸々。説教臭いというよりも「あ。分かるよ、その感じ」というような。
抜きに出てお気に入りの作品は2つ。
庭師の老婆が語る『百年の庭』幻想物として気に入った。情景が美しいく「何かに人生を捧げる」というシュチュエーションがとても良かった。
一般庶民の私は、どうしても「お屋敷の庭」というものに憧れがあるので、その分点数が甘いという部分もある。
もう1つのお気に入り1本の映画を巡る物語『立花新兵衛只今罷越候』。
新撰組がらみでしかも舞台が映画撮影所というところがツボだった。無為な人にスポットを当てて書くのが浅田次郎はすごく上手いんだなぁ。
毎度「あざとい」と思いつつ、けっこう騙されてしまう。
春のうたかた、夢うつつに読むのがいいかも知れないと思う1冊だった。