朝倉かすみ、いいね!
朝倉かすみは『田村はまだか』以降、なんとなく追っているけれど、ここへ来てグッと力をつけている気がする。前回読んだ『平場の月』も良かったけれど『にぎやかな落日』も負けず素晴らしい。
ただ『にぎやかな落日』は「どこにでもいそうな老女の晩年」「お一人様の老後」がテーマなだけに華やかさは全くない。だけどその分、他人事ではないような感じがとても良かった。
にぎやかな落日
- 主人公は北海道で独り暮らしするおもちさん、83歳。
- 夫は施設に入り、娘は東京から日に2度電話をくれる。
- 1人暮らしをする老女の生活とその胸の内を丁寧に描く。
感想
いやぁ…参った。老女の描写が気持ち悪いくらい上手い。
主人公の「おもちさん」視点ではなく、家族視点で読むとムカつくほどに。と言うのも、おもちさんの言動は実母や義母の言動と通じるところがあって高齢者の書き込みがリアル過ぎるほどリアルなのだ。
『にぎやかな落日』を読むことで「あぁ…もしかしたら母達もこんな風に思っているのかも知れないな」と、気付かされる部分が多々あった。
そして、おもちさんの老いはそう遠くない将来、老いていく自分の未来を見るようで色々と考えさせられてしまった。
身体はどんどん衰えていくって、周囲からは老人扱いされる生活。
「考えただけでゾッとする」と言いたいところだけど、まぁ意外とどうにかなるのかな…とも思ったりした。
おもちさんはワガママで、トンチンカンなことばかりして、周囲にたくさん迷惑をかけているけれど、ふてぶてしく、そして楽しげに生きている。私もいつかおもちさんのようになる日がくるのだろうけど、それはそれでやっていけるんだろうな…って気持ちにさせられた。
朝倉かすみは「老人の視点」と「老人に振り回される家族の視点」の両方を持っているのだと思う。ちなみに朝倉かすみは現時点(2021年)で60歳。どちらの観点からも書ける年齢だこらこそ『にぎやかな落日』でリアルな老人を描くことができたのかも知れない。
唯一、文句をつけるとするなら「おもちさん」の最後を描いていない…ってこと。
そう遠くないタイミングで死が訪れるだろうと予感させておきながらも、ふわふわした日常が続いていくのは物足りない気がした。
それにしても『にぎやかな落日』は他にはない感じの作品で面白かった。朝倉かすみの次の作品に期待したい。