『天才作家の妻 40年目の真実』はノーベル賞作家とその妻を描いた物語。「40年目の真実」なんて副題がついているところで、お察し感はあるものの「夫婦の中でだけ守られてきた秘密」がテーマになっている。
ジョナサン・プライス(夫)とグレン・クローズ(妻)の演技が素晴らしくて本物の夫婦のように思えてしまった。
私はものすごく面白かったのだけどネタバレせずに感想を書くのは無理なタイプの作品なので、今回はガッツリとネタバレ込の感想となります。ネタバレNGの方はご遠慮ください。
天才作家の妻 40年目の真実
天才作家の妻 40年目の真実 | |
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The Wife | |
監督 | ビョルン・ルンゲ |
脚本 | ジェーン・アンダーソン |
製作 | ロザリー・スウェドリン ミタ・ルイーズ・フォルデイガー クローディア・ブリュームフーバー ジョー・バムフォード ピアース・テンペスト |
製作総指揮 | ジェーン・アンダーソン ビョルン・ルンゲ ゲロ・バウクネット マーク・クーパー フローリアン・ダーゲル トマス・エスキルソン ガード・シェパーズ |
出演者 | グレン・クローズ ジョナサン・プライス クリスチャン・スレーター |
音楽 | ジョスリン・プーク |
公開 | 2018年8月17日 2019年1月26日 |
あらすじ
現代文学の巨匠として名高いジョゼフ・キャッスルマンの元に「今年のノーベル文学賞はあなたに決まりました」との一報が入るところから物語がはじまる。
ジョゼフとジョーンは手を取り合ってにベッドの上で飛び跳ね喜び合う。
身重の娘や駆け出しの作家の子、友人、教え子らを招いてのパーティーが開かれ、その積でジョセフは最愛の妻に感謝の意を述べるのだった。
ノーベル賞の授賞式に出席するため、ジョセフとジョーンは息子を伴ってストックホルムに向かう機内で2人のもとに、ナサニエルというライターが挨拶にやってくる。
ジョゼフはナサニエルに無礼な態度を取るが、妻のジョーンは「敵に回したら駄目よ。恨まれたらどうするの?」と夫を戒める。
ホテルに到着すると2人は大勢の人ら出迎えを受ける。ジョゼフ、ジョーンには、それぞれ付き人がつき、リネアという女性カメラマンが密着することになった。
そして物語は過去の回想へ…
1958年ジョセフとジョーンはスミス大学で出逢う。ジョゼフは若い大学教師で、ジョーンは小説家志望の女子学生。
ジョゼフはジョーンの才能を認め、さらに、女性としてジョーンを見つめていた。
ジョゼフは既婚者だったが妻とはうまくいっておらず、ジョーンも次第に彼に惹かれてゆき、結果的には略奪結婚することになってしまう。
回想が終わり現代パート。
ストックホルムでの忙しい毎日に、ジョゼフは明らかに興奮気味。ジョーンは息子が発表した短編小説を絶賛して褒めるのだが、ジョゼフは息子を半人前扱いする。
「父親が偉大すぎるのよ。あなたに認めてほしいの」とジョーンは言うが、ジョゼフは聞く耳を持たず、息子は次第に不機嫌になっていく。
あるよる、ジョーンがふと目が覚ますと、夫が部屋いなかった。心配して、あちこち探し回ると、夫はラウンジで甘い物を口にしていました。
そばにはカメラマンのリネアがいて、夫は彼女に詩を披露していました。それはジェイムズ・ジョイスのもので、夫のお決まりの口説き文句だった。
翌朝、夫の世話に疲れたジョーンは、一人でストックホルムの街に出掛けるが飛行機で会ったナサニエルに声をかけられる。ナサニエルはジョーンを19世紀からある正統派のバーに誘った。
ナサニエルはジョゼフに関する本を書くことになったと告げ、ジョーンに質問をはじめる。
ナサニエルはジョーンが学生時代に書いた『教授の妻』という小説も読んでいて感想を述べ、「どうして小説家になることを諦めたのですか?」と問う、
ジョーンは「そういう時代ではなかったの」「向いていないと思ったのよ。夫は勧めてくれたけれど私自身が望まなかった」と答えた。
ナサニエルはジョゼフの若い頃の作品に話を移し、二流小説だったと酷評します。
そしてナサニエルは「あなたはジョゼフにうんざりしているのでは?彼の影でいることに」とたたみかけてくるのだが、ジョーンは「すごい想像力だわ」と笑顔を見せて席を立つのだった。
その頃、ジョゼフは授賞式のリハーサルに出席するも途中で気分が悪くなり、退出していた。
ホテルの部屋に戻ったジョゼフとジョーンは言い争いになるのだが、娘から出産を知らせる電話がかかってくる。電話口で泣いている赤ん坊の声に耳をすまし、感動した二人は「喧嘩なんてしてる場合ではないね」と互いに微笑み合うのだった。
いよいよ2人はいよいよノーベル賞授賞式の当日を迎える……
単純明なゴーストライター物ではない
『天才作家の妻 40年目の真実』は副題からいきなりネタバレを突っ込んできている訳だけど、要するに「ノーベル賞作家の妻は夫のゴーストライターだったんじゃね?」って物語。
結論(ネタバレ)から言うと妻はゴーストライターだったとも言えるし違ったとも言える。要するに2人は合作と言う形で小説を書いてたのだ。
メインで書いていたのは妻のジョーンではあるのだけど、妻は夫の発想が無ければ作品を書けないタイプの人だったし、そもそも妻の作家としての原動力は夫だった。なので単純明快なゴーストライターの物語…ではない。
一般的にゴーストライターと言うと「作家の影として生き、作家に利用されている」みたいな立ち位置の場合が多いのだけど『天才作家の妻 40年目の真実』の場合はゴーストライター的に活動していた妻のジョーンも自分のために動いているところがある。
- 女性は作家として大成し難い時代だったので夫を利用した
- そもそも夫が好き(略奪結婚)なので夫のために何かしたかった
……要するにジョーンは恋と仕事を一挙に手に入れているので被害者とは言い難い。
作家としての業を持った女性
ジョーンは夫のノーベル賞受賞を機に「自分がメインで書いていた作品なのに…」と心乱れる日々を送る。
実際、メインで書いていたのはジョーンなのに華やかな場に立てるのは夫のジョセフだけなのだ。しかもジョセフは女好きで、ジョーンは結婚生活で何度となく夫から煮え湯を飲まされてきている。
夫婦喧嘩の時に「あの作品は私が書いた」と叫ぶジョーンに夫のジョセフは言うのだ。「きみが書いていたとき、ぼくは育児をしていた」と。
これって普通なら妻が言うセリフなのだけど、彼らの場合は立場が完全に逆転している。実際、ジョーンは子どもが母を求めて泣き叫ぼうが書斎から一歩も動こうとしなかったし、ジョセフは優しく子どもを抱きしめる立場にあった。
ジョーンは「自分が被害者である」と言う意識を捨てきれないでいたのだけれど、実のところ彼女の方が作家として思う存分仕事をしていたのだ。
「夫婦のことは夫婦にしか分からない」なんて言葉があるけれど、ジョーンとジョセフの関係はまさにそれ。パッと見だとジョーンは「夫のゴーストライターとして働いていた妻」でしかないけれど、作家としては実に幸せな人生を送っていたのだ。
役者さん達の演技が上手過ぎる
『天才作家の妻 40年目の真実』の見どころは物語の面白さだけではない。
役者さん達の演技の巧みさにも是非注目して戴きたい。
ジョナサン・プライス(夫)とグレン・クローズ(妻)のパーフェクトな夫婦っぷりもさることながら、2人の間に火を注ぐナサニエルの演技も素晴らしい。
素晴らしい役者が素晴らしい役にハマった映画は観ていて本当に気持ちが良いものだ。
夫婦愛と作家の業
『天才作家の妻 40年目の真実』はゴーストライターをテーマにした単純な作品ではなく夫婦愛と作家の業と言う2つのテーマを上手く融合させた素晴らしい作品だと思う。
作品のテーマや役者さん達の演技があってこそのもので地味ながらも間違いない名作。
もう1度観て色々と検証したいと思わせてくれる素晴らしい作品だった。