軽井沢を舞台にした、大人の恋愛小説ばかりを集めた短編集。
安心して読めて、そこそこ楽しく、なかなかに面白い作品だった。
ものすごく良い……とか、感動したとか言うほどのものでもなかったけれど「なんかいいなぁ」という感じ。
金色の雨
抑えても、抑えても、切ない恋心はこぼれ落ちていく。
過ぎし日の想いを、躰の奥に沈めながら―。別離と再会、すれ違いと邂逅を何度も重ねながら、男と女は次第に成熟していくのだろうか…。
美しい軽井沢の四季を背景に、数奇な運命に彩られた大人たちの恋愛模様を、そして揺れる心理状態を直木賞作家が鮮やかに描く連作小説。
アマゾンより引用
感想
庶民オブ庶民の私としては「軽井沢が舞台」というだけでも、ついついドキドキしてしまう。
宮本輝も軽井沢が好きらしくて、そういう作品を書いているが、彼の描くブルジョア人間というのは火曜サスペンス劇場クラスの安っぽさが見え隠れして辟易してしまう。
それに対して藤田宜永の描くブルジョア人間は、気負いがなくて良い感じだ。
この辺の完成は資質というよりも、育ってきた環境によるものなのか、それとも作家になってからそういう生活に慣れ親しんだのか。
そう言えば、藤田宜永の妻である小池真理子の描くお金持ちの描写も素敵にワンダフルだ。
夫婦とはいえ、別の作家さんなので、較べるのはどうかと思うのだが、ちょっと通じるところがあるようにも思う。
短編小説の主人公は、いずれも、そこそこ年を重ねた男女である。
ちょっと立原正秋の世界とかぶるような。私自身、30代に突入してから、恋愛小説の好みが変わってきているらしくて「若者の熱い恋」も嫌いじゃないけど、こういう大人の恋愛が面白いと思うようになってきたらしい。
派手さはないけれど、味わいがあって良い。
突っ走るのではなくて、色々な気持ちを飲み込んだりしながら、じっくりと育てる恋もいいよなぁ……とか。彼の描く恋愛小説って、あまり突っ走り過ぎないところがミソなのだなぁ。
本当にありそうな話が多くて、ちょっといい感じなのだ。
サラサラと読めて、ほんのりと後を引くような、美味しいお酒のような1冊。
たまにはこういう恋愛小説もいいなぁ……と思った。