蛭田亜紗子の作品を読むのはこれで2冊目。以前読んだ『エンディングドレス』が良かったので、もう1冊読んでみようと手に取った。
『エンディングドレス』は大人の童話的なハートフルストーリーだったので今回も心温まる系かと思っていたら、予想と違っていて驚いた。性的描写を含むちょっとエロティックな物語を含む短編集だった。
蛭田亜紗子については何も知らなかったのだけど女による女のためのR-18文学賞出身と知ってなるほど納得。
愛を振り込む
- 6人の女性が主人公の短編集。それぞれ少しずつリンクしている部分がある。
- 他人のものばかりほしくなる不倫女
- スーパーの「お客さまの声」に夢中な主婦
- 起業に失敗した30代の独身女性
- 旬がすぎ実家に帰ったタレント
- 会社の備品を横領してオークションで売るOL
- ブログを通じてしか知らない男にお金を振込む女
- なんとなく身近にいそうな女達の愛の形を描く。
感想
面白かった! 短編集って大抵「面白い話もあったけど、面白くない話もある」ってパターンが多いのだけど、収録作全部面白かった。
ただし、この作品は登場人物達に共感出来ない人はイマイチだろうな…とも思う。
主人公は全員女性。1人1人それぞれリアルで自分自身だったり、友人や知人を重ねてしまうような描き方、上手いと思った。
感心したのが濡れ場の書き方。
蛭田亜紗子は女による女のためのR-18文学賞出身との事だけど、セックスの描写が下品でなくリアル。そして女性の感性で描かれているので不快じゃなかった。
どの作品も面白くて1番を決めるのが難しいのだけど、起業に失敗した女を描いた『カフェ女につけ麺男』と表題作の『愛を振り込む』が特に気に入った。
『カフェ女につけ麺男』はカフェ経営に失敗した主人公が恋をして立ち直っていく過程を描いた作品。すごく好みだった。
第三者からすると、どこからどう見ても「逃げて~。そいつ詐欺師だから逃げて~」としか言いようのない男に全力で突っこんでいくあたりがなんとも切ない。駄目な男にハマってしまう女性って身近に1人や2人いるんじゃないだろうか?
ものすごく切なくて気の毒過ぎる話なのに、読後感が悪くないのが凄いと思った。ほんのり未来に希望があるラストで主人公を応援したいと素直に思った。
表題作の『愛を振り込む』の主人公は本当に残念な女性なのだけど「私も少しボタンを掛け違っていたら、彼女のようになっていたかも知れないな」なんて事を思った。
『愛を振り込む』色々な事を考えさせられる作品なのだけど、作品の根本に流れているのは「孤独」だと思う。ちょっと語りたいような作品なのだけど、まだちょっと頭の中が整理出来ずにいる。
蛭田亜紗子の作品を読むのはこれで2冊目だけど、他の作品もどんどん読んでみたいと思った。