無冠の女王、姫野カオルコの直木賞受賞作。
私の姫野カオルコの歴の原点はなんと言っても処女三部作(『ドールハウス』『喪失期』『不倫(レンタル)』)姫野カオルコファンの中でも、処女三部作が1番好きと言う人が多いのではないかと思う。
私も姫野カオルコ処女三部作を愛する1人だ。
この作品は処女三部作とは別の位置付だと思うのだけど、私はこの作品を処女三部作の最終章ではないかと感じた。
昭和の犬
- 主人公はシベリア抑留の経験から精神的に不安定になった父親とその影響下で母親の精神状態も良いとは言い難い毒親過程に育つ。
- 主人公はと同時に上京。間借り生活をはじめる。
- 地味ながらも
- 平成19年。49歳になった主人公は…
感想
主人公の女性は毎度おなじみの喪女(モテない女)だ。
そして当然のごとく変わった両親に育てられた事のコンプレックスを抱えている。いつもの姫野節。新しさは全く感じられない。
ダメダメな独身女が地味に真面目に生きていく。そこにはドラマティックな事も無ければ、ラッキーに遭遇することもない。
だが、それが良い。これぞ姫野カオルコの真骨頂だと思う。
今までの処女三部作と違って、ヒロインの幼少期から親の介護までが一貫して描かれている。
親の介護のため東京から滋賀に通ったくだりは、作者自身の体験が投影されているらしい。(何かの対談で介護体験を語っておられた)。
姫野カオルコの書く切ない女は、日本中に沢山いるであろう地味で真面目な独身女性の姿だと思う。
処女三部作に出会った時。私はまだ独身だった。
今は結婚して子も出来たけれど、それは姫野カオルコの書く独身女性よりほんの少しばかり運が良かったからに過ぎない。
姫野カオルコの描く痛々しい独身女性は「ボタンを掛け違った私の姿だ」と言う意識が強くて、今までも姫野カオルコの作品を読むと胸が苦しくなる。
今回の作品でも主人公は世間的に見ると決して幸せとは言えない人生を送っている。しかし、今までのヒロイン達とは少し違っていて、それはそれとして自分自身の心に折り合いを付けているように感じられた。
姫野作品の良いところは、よくよく読むと悲惨で救いのないような事でも、サラリと書かれていることと「ドッコイそれでも生きている」という強さがある事だと思う。
この作品の主人公の晩年が穏やかなものである事を祈らずにはいられない。
それにしても。私は何度も「もう姫野カオルコにはついていけない」とか「今回はイマイチ。もう姫野カオルコを卒業する」と書いているのに、何度も戻ってきてしまっている。
だけど今回は戻ってきて良かったとシミジミ思う。
そして、姫野カオルコが「いつもと違う作風の作品」とか「姫野カオルコらしからぬ衝撃作」ではなくて「これぞ姫野カオルコ」と言うようなこの作品で直木賞を受賞した事を嬉しく思う。
やはり私は姫野カオルコが好きだって事を再確認した。
これからも地味に追いかけていきたい。