どちらかと言うとミステリは苦手なのだけど、秋吉理香子の書くミステリは新作を楽しみにしている。
ミステリと言っても謎解き重視の物は苦手なのだけど、女性作家の書く物語メインのミステリ小説ならイケるクチだ。
具体的に言うと桐野夏生とか、イヤミスの女王と呼ばれる真梨幸子あたりが好みなのだけど、秋吉理香子は桐野夏生とも真梨幸子とも違う女性好みのする作風だと思う。
『灼熱』は女性好みのミステリ小説…と言うよりも、今はなき『火曜サスペンス劇場』そのものだった。
火曜サスペンス劇場が好きだった人には刺さるかも知れないけれど、私の好きな路線ではなかったのだけど「面白くなかった」とも言えない感じ。
灼熱
- 主人公は殺された復讐のために、整形し、身分を変え、憎い男の妻となった女性。
- 主人公は医者である英雄と暮らす専業主婦。こどもはいない。
- 主人公の元夫は転落死した事になっているが、英雄が殺したかも知れない…と疑っている状態。
- 主人公は夫の仕事、自殺サイトで知り合った女性と自殺を試みるが失敗。一緒に自殺しようとした女性になりすまし、自分が死んだことにして、夫の仇(かも知れない)男の妻に収まる。
感想
「整形して自分を偽り、夫を殺した(と思われる)男の妻になる」と言う設定は、それだけで心そそる。
どんでん返しもあるし、伏線の張り方も上手い。だけど、主人公が2人の男(元夫と現夫)から愛されまくりで、女を売りにした感じの設定になっているので、主人公の気持ちに沿う事が出来なかった。
前回読んだ『ガラスの殺意』と同じく、夫婦愛がテーマになっていて、夫の仇を打つために結婚した英雄に心寄せてしまう過程などは「好きになってはいけない人を好きになる」と言う、恋愛小説の王道設定でグッとくるものがあったのだけど、なんだかこう…微妙に安っぽい感じを受けてしまった。
- 何不自由のない生活をする専業主婦
- 夫からは愛されていて大切にされている
……なんか、こう…火曜サスペンス劇場でなければ、主婦向けの漫画雑誌に出てきそうな設定で「お、おぅ」みたいな気持ちになってしまった。
もう1つ難癖をつけるとしてら「強烈な悪人が登場しない」ってことだと思う。強いて言うなら、英雄の妹の言い分は自己中心的過ぎだとは思ったけれど、それも彼女の背景を思うと責める事は出来ないかな…程度のもの。
物語に悪役がいないのが駄目…とは思わないけれど、なんかちょっと綺麗事過ぎると言うか、少女漫画のノリが過ぎる気がしてハマる事が出来なかった。
ただ最初にも書いたけれど『火曜サスペンス劇場』のノリが好きな人なら絶対に楽しめると思う。
- セレブっぽい生活
- 庶民感のない専業主婦
- ミステリだけど恋愛要素が濃い
- 最後の最後にどんでん返し
- ラストシーンは海を望む崖っぷち
……とこんな感じ。
悪い作品だとは思わなかったけれど、次はもう少し大人路線でお願いしたいな…と思った。
ガラスの殺意 秋吉理香子 双葉社