あまりにもチンケな物語で「ちゃんちゃら笑わせてくれるぜ」と溜息をついてしまった。
駄目な作品だと言うつもりはない。ただ幼いのだ。拙いのだ。
もしも私がこの作品を中学生の頃に読んでいたら、きっとハマっていただろうと思う。綺麗な文章だし、物語もいい。「青春」って感じも悪くはない。
……が、底が浅すぎるのが、どうにもこうにも。
パッサジオ
コンサート開始直前に声を失ったロック歌手は、奇妙な魅力を放つ女医を追って、彼女の祖父が主宰する山中の不老不死研究所に辿りつく。
そこで彼が出会ったのは、生命の秘密を解きあかすというDNAミュージックを聴いて育った巨大ひまわり、そして…。
アマゾンより引用
感想
最初の括りを読んだだけで最後が見えるという作りが悪いとは言わないが、そこへ辿り着くまでの屁理屈が作りこまれていないのだ。
人間の寿命、生死感、生きることの素晴らしさ……などというベタベタなテーマを描くのなら、もう少し捻ってくれないと大人が読むには耐え難い。
社会に出て働いたことのないガキんちょから『労働の重要性と喜び』について語られてしまって苦笑いしか出来ないみたいな感じ……と言ったらいいのだろうか。
口先だけの生死論という感じが鼻についてしまった。
「DNAミュージックを聞かせて寿命を伸ばす研究」なんてネタを使うなら、もっとファンタジックにするか、さもなくば面白さぶっちギリで引っ張ってくれるかしないと、読み手は萎えてしまう。
小川洋子あたりが書いてくれれば面白そうなネタだなぁ……とは思った。
この作品は、まったくもってハマれなかったので、たぶん速攻で売り払うと思う。
辻仁成の書く作品は決して嫌いではないのだけれど、作品によって当たり外れの幅が大きいような気がする。ちょっとガッカリな1冊だった。