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海峡の光 辻仁成 中公文庫

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作品を読み終えての第一声は「これって、やったもん勝ちだなぁ」だった。

主人公は函館の刑務所で看守をしている男。そして主人公が働く刑務所にかつて主人公をイジメていたヤツが入所してくる。

これはもう設定だけでも、ドキドキしてしまう。「読むしかないでしょ!」って話だ。

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海峡の光

廃航せまる青函連絡船の客室係を辞め、函館で刑務所看守の職を得た私の前に、あいつは現れた。

少年の日、優等生の仮面の下で、残酷に私を苦しめ続けたあいつが。傷害罪で銀行員の将来を棒にふった受刑者となって。

そして今、監視する私と監視されるあいつは、船舶訓練の実習に出るところだ。光を食べて黒々とうねる、生命体のような海へ……。海峡に揺らめく人生の暗流。

アマゾンより引用

感想

「イジメ」というテーマは小説のネタとしてもポイントは高いのだが、なによりも「大人になってもなお引き摺っている感情」というのが、なかなか根っ子が深くて、読み応えがあった。

どんな人間にもダークな面を隠し持っている訳なのだが、この作品は、その「ダーク」な部分に焦点が当てられている。

文章の雰囲気は、ちょっぴり暗め。でも重くない。

解説で江國香織が「詩情」を感じる……とかなんとか書いていたけれど確かに『海峡の光』には「詩情」に溢れていて、その「詩情」こそが、重いテーマをさらりと読ませる原動力になっているのだと思う。

どんなに辛いことでも「時間」を重ねていくことによって少しづつその辛さが薄らいでいく…というのも事実だが「時間」を重ねていくことによって様々な感情が発酵しちゃうこともあるのだな…とか思ったりした。

大人ってヤツは、子供の目からみると立派(?)に見えたりするけれど「宿題しなさい」だの「ゲームは1日1時間」だの「そんな事でクヨクヨするな」だの、ちょっぴり偉そうなフリをしながら、その心の内では昔のしがらみから逃れられなくて、ジタバタしてたりなんかするのだ。

布団に入ってから悶々と「そんな事」を考えていたりするのだ。そ~ゆ~視点で見ると大人も子供も大差ないと思う。

もっとも、正真正銘ピッカピカに立派な大人だっているかも知れないが。

「いじめ」をモチーフに使っている小説の数は多いし珍しくはない。

しかし『海峡の光』はいじめを扱った作品の中でもかなりレベルの高い思う。

若い人よりもむしろ「昔のしがらみから逃れることが出来くてジタバタしている大人」に読んでもらいたいと思う1冊だった。

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