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じっと手を見る 窪美澄 幻冬舎

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この作品。恋愛小説と言う触れ込みになっているけれど、恋愛小説と言い切ってしまうには微妙かも知れない。

これは恋愛小説として駄目だと言う意味ではなくて、恋愛小説の枠だけには納まり切れない作品だと言う意味で。

窪美澄は当たり外れが激しいのが玉にキズだけど、作風は決して嫌いじゃない。

さよなら、ニルヴァーナ』だけは色々な意味で許し難い物があって憤慨したものだけど、予想以上に上手くなっていて驚かされた。

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じっと手を見る

富士山を望む町で介護士として働く日奈と海斗。

老人の世話をし、ショッピングモールだけが息抜きの日奈の生活に、ある時、東京に住む宮澤が庭の草を刈りに、通ってくるようになる。

生まれ育った町以外に思いを馳せるようになる日奈。一方、海斗は、日奈への思いを断ち切れぬまま、同僚と関係を深め、家族を支えるためにこの町に縛りつけられるが……。

アマゾンより引用

感想

窪美澄は不幸を描くのが上手過ぎると思う。

なんとなく柳美里の作風と被るところがあるように思うのは私だけだろうか。

窪美澄の方が柳美里よりも少し軽やかな感じがするものの、低気圧で頭痛がする日のようなどんよりした不幸を描かせたら天下一品と言っても過言ではない。

富士山の見える田舎の街で介護士として働く恋人達が主人公。

どちらかと言うと女性に視点が置かれているけれど、ダブル主人公と言っても良いレベルで男性側もしっかり書き込まれている。

2人も恵まれた育ての若者ではなく地味に不幸。

しかしドラマチックに不幸かと言うとそうでもなくて「まぁ…そんな人もいるよね」くらいの、どこにでもある感じの不幸設定。とてもイメージしやすくて良かった。

そこへ割り込んでくるのが東京から来た人達。

介護専門学校のパンフレットを作成すると言うことでやって来た男女(実は夫婦)は主人公カップルとは全く逆の設定で超セレブなお育ち。主人公カップルと東京から来た超セレブな人達が交わることで物語が進んでいくのだけれど、あらすじについては書かないでおこうと思う。

恋愛小説としても切なかったけれど、それ以上に今の世の中を上手く描けているところに感心した。

主人公カップルのような気持ちを懐きながら生きている若者が多いのだろうな…とか、色々な事を考えさせられた。

田舎に生まれて、人生の選択肢が少なくて。都会の人は馬鹿にするけど、休みの日には大型ショッピングモールに行くしか楽しみがないようなそんな人生。

その一方で生まれながらに恵まれていて、一生本気を出さなくてもそれなりに生きていける人がいると言う現実が残酷なまでに描かれていて感心させられてしまった。

本筋とは少しズレるのだけど窪美澄はいちいち性描写を突っ込んでくるのが好きみたいだ。(そこも少し柳美里と被る)

単に好みの話になるけれど、窪美澄の性描写は嫌いじゃない。

「あっは~ん・うっふ~ん」と性の喜びを謳歌しまくっている描写だと読んでいてウンザリしてしまうのだけど、そこまで激しくもなく、そうかと言って文学的過ぎない感じでかなり好き。

登場人物の生活に溶け込んでいる感じがして好感が持てる。

この「性描写が溶け込んでいる感じ」は他の女性作家さんには見られない特徴だと思う。今まで読んだ窪美澄の作品の中では1番好きかも知れない。

次の作品も是非、読みたいと思う。

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白い木蓮の花の下で
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