ちょっと不思議な話ばかりが9つ収録された短編集。私の知っている「あの」小川洋子が帰ってきた!
ここのところ、ずっと良い人路線の話ばかりで辟易していたのだけど、小川洋子の真骨頂は「密やかな悪意」にあると思う。
芥川賞を受賞した『妊娠カレンダー』に仕込まれた悪意にギクリとしたあの感覚を久しぶりに堪能させてもらった。
『博士の愛した数式』のような路線も悪くはないが、個人的には毒が無い小川洋子なんて、面白くもなんともないとさえ思っている。
夜明けの縁をさ迷う人々
世界の片隅でひっそりと生きる、どこか風変わりな人々。
河川敷で逆立ちの練習をする曲芸師、教授宅の留守を預かる賄い婦、エレベーターで生まれたE.B.、放浪の涙売り、能弁で官能的な足裏をもつ老嬢…。
彼らの哀しくも愛おしい人生の一コマを手のひらでそっと掬いとり、そこはかとない恐怖と冴え冴えとしたフェティシズムをたたえる、珠玉のナイン・ストーリーズ。
アマゾンより引用
感想
個人的には曲芸師とエレベーターボーイの話が好きだった。
小川洋子は本当に趣味が悪い。でもこれはあくまでも賞賛の意味での「趣味が悪い」だ。小川洋子の嗜好って「身体の不自由な人を馬鹿にしたり、見世物的に思ってない?」と言われても仕方が無いような部分さえあると思う。
人としとてタブーの領域な訳なのだけど、彼女の描くそれは一般的にギリギリのラインで「OK」なのだろう。
小川洋子の描く話(特に短編)で、心に残っている作品には、たいてい普通じゃない人が主人公だったり、脇役だったりする。
久しぶりに小川洋子ワールドを堪能させてもらったのだけど、残念ながら一時の勢いは無い気がする。
面白いのだけど、読者をトリップさせてくれるほどのパワーは無いと言うか。
どの話も面白かったし、上手いと思うのだけど死ぬまで覚えていて、反芻したくなるほどのインパクトは無かった。
もしかしたら、これは作者の力が衰えたのではなくて、私の感性が錆びついてしまったからかも知れないのだけど。
まぁ、何にしてもここのところずっと、小川洋子作品には「毒が足りない」と思っていたので、たっぷり毒を味わうことが出来て大満足。
出来れば次は毒のある長編作品を読ませてもらいたい。