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天使 遠藤周作 講談社文庫

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手のひらに収まってしまいそうな、小さな作品ばかりを集めた短編集である。

短編のことを掌編ということがあるけれど、ここに入っている作品を読んで「なるほどなぁ」と納得した覚えがある。

遠藤周作の『天使』は何故か「手のひらの小説」って気がしたのだ。

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天使

ザックリとこんな内容
  • ほんのりと悲しくなってしまうような短編集。
  • 短編4柵を収録。
  • 遠藤周作らしい優しさが感じられる1冊。

感想

私が気に入っているのは、『犬と小説家』と『嘘』の2作品。

『犬と小説家』は、性病に罹った犬が、病気のためにペニスを切除することになりそうなってみて、はじめて飼い主は犬に愛情を感じるようになる……というお話。

『嘘』は女子高生と、中年男性が、ひょんなキッカケから文通をするお話。どちらも「作品」と呼ぶよりも「お話」と呼んだ方が、しっくりくるような、小さな作品なのだが、ほのかに悲しくて、胸にくるのだ。

人間は時として嘘をついたり他者に対して酷いことをしたりする。

そんなことは、しないに越したことはないし、できることなら真っ直ぐに暮らした方が良いに決まっているのだが、そうしなければならない時ってのも、あるような気がするのだ。

この1冊は、その辺のジレンマが上手く表現されている短編集だと思う。そして「正しくないこと」を、決して糾弾しない作者の視線が感じられるところに、あたたかくて良い。

「頭から否定しない」「けっして突き放さない・見放さない」ということは、作者が求めたイエス像なのだろうと思う。

いつも自分の傍にいて、一緒に泣いてくれるイエスは、バリバリ長編純文学の中だけでなくて、こんなに小さな作品の中にも、ちゃんと息づいているのだ。

この作品集の中には「ちょっと後味悪い」タイプの作品も含まれているのだが、けっして嫌な主人公達を投げっぱなしにしていないところが、とても好きだ。

作者の考え方や、求めているものが、上手い具合に染み込んでいる1冊だと思う。

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白い木蓮の花の下で
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