『彼の生きかた』は猿の研究と、猿のことしか考えられない男が恋をする話だ。
主人公のモデルになったのは、間直野之助というニホンザルの研究家らしい。
私の恩師が、間直之助に師事していたので「へぇっ」っと思った……なんてことは作品とは、なんの関係もない話。
彼の生きかた
- 吃音のため、人と上手く話をする事が出来ない青年が主人公。
- 主人公は猿の研究者で今まで研究一筋に生きてきた。
- そんな主人公が美しい未亡人に恋をする。
- 主人公の恋の行方と主人公に仕掛けられた「罠」の行方は…
感想
『彼の生きかた』は遠藤周作作品の中でもキッチリとした純文学ではなく、エンターティメント系に近い作品なので読みやすい。
私は遠藤周作のエンターティメント系はあまり好きではないのだが、この作品だけは別格で好きだったりする。人物の描き方が素敵にワンダフルなのだ。
主人公の一平は吃音で上手く人と会話することができない青年。
ヒロインは夫を亡くし、夫の上司に結婚を迫られつつ、主人公も気になっちゃう未亡人。
そして頭が良くて、強くて完璧な男……のように見えて、完璧でない夫の上司。
みなそれぞれに、身勝手なところがとても良い。
吃音で、猿の研究一筋で、純粋な青年とくれば、普通なら美化してしまいそうなものなのに、そんな彼にもちゃんと「卑怯さ」を仕込んでくれていたあたりに作者の上手さがあると思う。
そして女性として共感したのはヒロインの「ズルさ加減」である。
個人的には「そんな女、どうよ?」と思うのだが、ちょっと分かる気がする部分があるあたりは上手いと思った。
遠藤周作の作品に登場する女性は「定形通りのお人形さん」が多くて、あまり心に残る登場人物はいないのだけど、この作品にの朋子と『私が・棄てた・女』のミツだけは別格に好きだ。
毎度思うのだけど、遠藤周作は私にとって大好きな作家さんなのだが、女性が上手く描けていない……ってところは最大の弱点だと思う。
物語を楽しむだけでなく「猿の生態についての知識を楽して手に入れる」という意味でも面白い1冊だと思う。
私はこの作品を読んで今まで以上に猿が好きになった。