雀野日名子は今回初挑戦の作家さん。『笑う赤おに』と言う題名に惹かれて予備知識無しで手に取った。
『ないたあかおに』をイメージしている事は容易に察する事が出来る訳で、表紙の団地を見るからに「これは不幸の匂いプンプンですよ!」と思わず鼻息が荒くなってしまった。
双葉社なので、私の苦手なミステリ系なのは予想ついたけれど「なんだか不幸の匂いがするぞ…」と言う好奇心とワクワク感には勝てなかった。
笑う赤おに
- 高齢者福祉に力を注ぐA市の福祉団地を巡るミステリ。
- 福祉団地の一室で中年の男女の死体が発見される。
- ネット掲示板(2ちゃん風)での議論も白熱。
- 関わる人達のプライバシーポリシーも晒されて、そして…。
感想
期待以上の面白さだった。
生活保護の不正受給だの、介護問題だの、子どもを狙った犯罪だの、ワーキングプアの若年層の問題だのイマドキの流行りを目一杯突っ込んでいて「よくぞ、これだけ突っ込みましたね」と感心させられた。
主人公級の登場人物がやたら多いのだけど、私は娘を持つ母親のエピソードが面白いと思った。
専業主婦の女性が我が子を守るために戦うエピソードなのだけど、かつて流行った『電車男』を彷彿とさせるネタで、ネットとか2ちゃんねるが好きな人なら面白く読めると思う。
顔の見えない、素性の分からない「ネット住民」達が力を合わせて1つの事に立ち向かう…なんて、まるで電車男。
しかも専業主婦の女性はキラキラと輝いているタイプじゃなくて、ダメダメ主婦ってあたりがこれまた電車男っぽい。私は2ちゃんねる好きの人間なので、面白く読ませてもらった。
生活保護の不正受給の話にしても、介護問題にしても、よく書けていると思うし考えさせられる部分も多かった。
しかし残念な事に個人的にはオチがイマイチ気に入らない感じ。ずっと丁寧に書いてきたのにオチがあまりにも雑と言うか。
どうやら絶賛している人が多いようなのだけど、正直言って「そこまで出来た話かな?」と言う印象を受ける。
面白いミステリを読んだ後のカタルシスはないように思う。意外な結末と言えばそうなのだけど、意外だったら何でも良いって訳ではないような。
オチのエピソードも丁寧に書いてくれていたら、それはそれでアリだったとは思うのだけど。
雀野日名子は初めて読む作家さんなで「これから先が楽しみだ。他の作品も読まねば!」と思ったのだけど、雀野日名子名義での作品はもう発表しないとのこと。
この作品が雀野日名子にとって最後の作品になるらしい。
『笑う赤鬼』と言う作品自体は手放しで絶賛するほどでもないけれど、切り口の面白い作品だし他の作品も読んでみたいと思っただけに、これが最後の作品と言うのは残念に思う。
現在、雀野日名子は別名義でのネット執筆活動をしているとの事だけど、別名については公表されておらず、行方は分からない。
仕方がないので雀野日名子の名義でこれまでに書かれた作品を読んでみようと思う。
- あちん(2008年5月、幽ブックス 2013年6月、MF文庫ダ・ヴィンチ)
- トンコ(2008年10月、角川ホラー文庫)
- チャリオ(2009年9月、角川ホラー文庫)
- 太陽おばば(2011年2月、双葉社 2013年12月、双葉文庫)
- 山本くんの怪難 北陸魔境勤労記(2011年2月、MF文庫ダ・ヴィンチ)
- 終末の鳥人間(2012年7月、光文社 2015年10月、光文社文庫)
- 幸せすぎるおんなたち(2013年8月、講談社)
- 週末の鳥人間(2015年11月、光文社) Wikipediaより引用