時代小説はあまり好きではないのだけれど前回読んだ『早春賦』が気に入ったので読んでみる事にした。
題名に「心中」とあるのだから、これはまたドラマティック路線が期待出来るのではないか…と。
風待心中
- 物語の舞台は江戸時代。
- 眉目秀麗、将来有望な蘭学医の卵・真吉をめぐる物語。
- 親思いで優しく、
蘭学所からの信頼も厚い彼は、長崎への留学を控えていた。 真吉が長崎へ行く事が決まったタイミングで女を狙った連続殺人が起こり、 真吉が働く寺子屋の少女も犠牲になり…
感想
今回の作品はドラマティック路線と言えなくもないけれど、どちらかと言うとミステリ寄りの作品だった。
そして時代小説と言う体裁は取っているものの江戸風俗とかそう言う部分はそれほど重要ではなく「この話の舞台は江戸時代の方が合うから江戸時代にしました」と言う印象を受けた。
正直言って現代設定でも書ける話だし、もしかすると時代小説好きな人には物足りないかも知れない。私の場合、時代小説は苦手なので、むしろサクサク読み進める事が出来た。
さて。肝心の内容なのだけど、ミステリなのでどこまで書いて良いものかが悩ましい。
「面白かったかどうか」と聞かれたら、私はけっこう面白かった。しかし他の人の感想を呼んでいると「すぐにオチが分かった」と書いている人が多く、ミステリ好きな方には不評のようだ。
恥ずかしながら、私はかなり最後の方までオチが分からなかった。
たぶん『風待心中』と言う題名に翻弄されていたのだと思う。てっきり…と思っていたら、方向性が全く違っていて「あ…そう言う意味だったんですか」とすっかり騙されてしまった。
私は山口恵以子と相性が良いのだと思う。
話の持っていきかたや、登場人物がとても好みだ。思わず応援したくなってしまうような健気な人がいたりして、読んでいて本当に心地良い。
だけど今回の作品に限っては主人公母子の描き方には違和感を覚えた。
最初は「時代小説だから、こんなものかな…」と思いつつ読んだのだけど母子と言うよりも恋人の関係に近い気がした。
物語の筋を考えればそれもアリかも知れないのだけど、前回読んだ『早春賦』にしても今回の作品にしても、男性描写は微妙かも。いい男過ぎると言うか、ハーレクイン・ロマンス的と言うか。そこだけは少し残念に思う。
作者は時代物よりも現代物の方が向いているんじゃないかな…と言う気がする。
ミステリを書くにしてもガッツリとロマンス路線でお願いしたい。あえて何かに例えるのなら、大人の女性が読んでも耐え得る佐々木丸美路線って感じの。
前回の作品も今回の作品も雰囲気は好きだし面白いと思うのだけど、今一歩踏み込みが足りなくて勿体無い気がする。
……とは言うものの、気になる作家さんである事に間違いないので次の作品も読んでみようと思う。