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焼野まで 村田喜代子 朝日新聞出版

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私は40代になってから村田喜代子と出会えた事を幸せに思う。

中高年女性の心理描写が抜群に上手い。たぶん私が20代で読んでいても面白くなかったと思う。今回も素晴らしい村田喜代子ワールドが展開されていて非常に満足した。

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焼野まで

大震災直後、子宮ガンを告知された。火山灰の降り積もる地で、放射線宿酔のなかにガン友達の声、祖母・大叔母が表れる。体内のガン細胞から広大な宇宙まで、3・11の災厄と病の狭間で、比類ない感性がとらえた魂の変容。前人未到の異色作。

アマゾンより引用

感想

今回は子宮がんを治療するる60代女性が主人公。

4次元的放射線照射療法と言う特殊な治療法にチャレンジする話で、作者自身の体験に基づくものらしい。

主人公は九州(たぶん鹿児島県)の放射線センターで治療を受けるため、家族から離れてウィークリーマンションを借りて放射線治療に挑む。その日々を描いた作品。

死んだ人、死にゆく人等が入り混じって、現代的なんだか幻想的なんだか分からない独特の世界が展開されていく。

家族との関わり、がん治療の事、祖母との思い出、自分と同じ時期にがんになった同僚とのこと…1冊に沢山の事が詰め込まれているにも係わらず、それらが良い感じで絡まっているのは流石だと思う。

祖母の言葉、産婆さんの言葉、ウィークリーマンション近辺の美容院で出会った鍼灸師の言葉。昔の女達の言葉が素晴らしい。

「そんなの迷信でしょ」と言われてしまえばそれまでだけど、古くから女達が受け継いできた言葉の数々にしびれた。

中でも薬師如来に病気治癒をお願いする言葉「おんころころ・せんだり・まとうぎ・そわか」と言う言葉が印象に残った。「早く病気を治してください」という意味で、人間の本質がよく現れていると思う。

村田喜代子の描く女は大抵の場合そうなのだけど「自分に忠実で少し我がまま」なのが良いと思う。

一般的に「女も年をとってオバサンになると図々しくなる」と言われるけれど、本当にその通りで私自身40代を過ぎてから「図々しくなったなぁ」と感じる事がある。

この物語の主人公も「病気が治りたい」と言う気持ちに忠実で、普通の感覚からすると「それって、どうなの?」と思うような行動がやたら目につく。

しかし「もし自分がガンになったら…」と想像すると、身体のしんどさや気持ちの不安定さから主人公のようになっちゃうだろうな…と思うだけに、主人公の身勝手さは不愉快には思わなかった。

がん治療がテーマの1つになっていて、人が死んだりもするのにお涙頂戴の要素は全く無くて、むしろ人を食ったような印象を受ける。

もやもやとして不思議な世界だけど、そこが良い。

八幡炎炎記』のような「THE文学」ってタイプの作品も悪くはないけれど、個人的にはこちらの作風の方が好みだ。

明け方に見る夢のような不思議な雰囲気のある作品。一気読みしてしまうほど面白い1冊だった。

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