私はもしかしたら吉田修が好きなのかも知れない。
今までそんな事、1度たりとも思った事はなかったのだけどこの作品を読んでふと思った。
初期の頃はむしろ好きじゃなかったのに、いつの間にか好きになってた…みたいな感覚。
ちょっと恋に似ているかも。
横道世之介
1980年代後半、時はバブル真っただ中。大学進学のため長崎からひとり上京した横道世之介、18歳。
動車教習所に通い、アルバイトに精を出す、いわゆる普通の大学生だが、愛すべき押しの弱さと、隠された芯の強さで、さまざまな出会いと笑いを引き寄せる。
友だちの結婚に出産、学園祭でのサンバ行進、お嬢様との恋愛、そして、カメラとの出会い・・・。そんな世之介と、周囲にいる人たちの20年後がクロスオーバーして、静かな感動が広がる長編小説。
アマゾンより引用
感想
横道世之介という奇妙な名前を持った若者が主人公の青春物語。
コカ・コーラのCMみたいな爽やかで「これぞ青春」「これぞ大学生」と言うような、中年心をくすぐる作品だった。
私は横道世之介のような青春時代を送ってはこなかったけれど、地方から東京に出て下宿して生活するのって、あんな感じなのかな……なんて想像しながら読ませてもらった。
この作品の何が良いかと言うと、登場人物達が魅力的だってことに尽きる。
筋書き自体はどうってことのないような、まぁよくある青春物なのだけど、横道世之介をはじめ、恋人も友達も幼馴染も親御さんも、みんな魅力的でいい人達なのだ。
いつもなら「こんな良い人ばかり出てくる作品にはリアリティが感じられない」とか「人間は良いところばかりではないのだから、もっと毒を含ませて欲しかった」となるはずなのだ。
だけど、横道世之介のことも、その周囲にいる人達もいつの間にか好きになってしまっていて、リアリティ云々なんて考える余地が無かったのだ。思わず応援したくなっちゃう感じなのだ。
42歳になった私にはもう戻ってこない時代のキラキラした若者達の物語を読んで胸がキュンとしてしまった。
ネタバレで恐縮だけど、この作品は横道世之介の大学生の話がメインになっていて「現在」に繋がった人達がそれを思い出していく形をとっている。
それぞれ色々な思いを持って年を取ったのだと思われるのだけど、振り返ってみて「あの頃は楽しかったなぁ」と思えるような思い出のある人は幸せだと思う。
叶わなかった夢や「あの時、ああしておけば良かった」という後悔ではなく「あの頃は楽しかったなぁ」と感謝出来るって素晴らしい事だと思う。
私も自分の過去を感謝する人間でありたい。実際のところは感謝半分、恨み言半分って感じになってしまうのだけど。
余談ではあるけれど読み終わった後に「これ、映像化したら面白いだろうなぁ」と思ったのだけど、すでに映画化されていた。
感じるところは皆さん同じらしい。また機会があればDVDを借りて観てみたいと思う。