『月の立つ林で』は2023年本屋大賞5位の作品。本屋大賞って私の中では「そのうち直木賞取りそうな人が貰いがちな賞」って位置づけでさらに言うなら「本屋さんに平積みすれば売れそうな本が取る賞」ってイメージ。
特に女性作家が書いた「イイハナシダナー」系が多くて、たしかに良い話も多いけどコレジャナイ感じの作品も多くて、本屋大賞は油断ならない。
『月の立つ林で』は読む前から「なんか私の好みじゃない予感がするんだよなぁ」と思いつつ、でも他にコレと言って読みたいもののない時期だったので「繋ぎで読むには丁度良いかな」くらいの気持ちで挑んだ。
「好みじゃない予感がする」とか言ってゴメン! なんかちょっと良かった。
月の立つ林で
- 2022年本屋大賞2位に輝いた作品。
- 連作短編形式で5つの物語(章ごとに題名も主人公も変わる)で構成。
- それぞれの物語の主人公達はタケトリ・オキナという男性のポッドキャスト『ツキない話』で繋がっていて、それぞれ月に思いを馳せる。
感想
『月の立つ林で』に出てくる登場人物は年齢も性別もバラバラだった。メンタル病んで退職した看護師、溺愛していた1人娘ができちゃった結婚して面白くない父親、minne的なツールで自作アクセサリーを売るアクセサリー作家の女性、母子家庭育ちの女子高生など。どの主人公も特別な人ではなくて「なんかどこかにいそうな人」で「自分の遠い知り合いにいそうな人」達ばかりだった。
そして面白いのがどの主人公も決して「良く出来た人」って訳じゃない…ってこと。どいつもこいつもツッコミどころ満載で「はぁぁ?何をワガママ言ってるんだよ?フザケンナよ?」と思ってしまいそうなエピソードが盛り込まれている。
最初の作品を読んだ時に「なんだかムカつく話なんだけどコレどうするつもり?」みたいな気持ちになったのだけど、上手いことオチを付けていて感心してしまった。読者が「はぁぁ?」と思うような部分はちゃんと作品内で回収して昇華してくれている。
主人公が分かりやすく成長した作品もあったし、成長したと言うよりも「真実に気付いた」作品や「今まで見えていなかった物が見えるようになった」作品もあった。どのエピソードも全てハッピーエンドに収まっていて職人の技を感じた。
青山美智子の作品を読むのは初めてだけど、この作家さん…ものすごく上手いのではないかしら。なんかこぅ…作家として脂が乗りまくっていた頃の林真理子から毒気を抜いた感じと言うか。瀬尾まいこほど善人を前に押し出してこないところが気に入った。
どの作品も丁度良い感じで面白い。「魂を揺さぶられた」とか「一生忘れない」みたいな強烈な感情は持てなかったけれど、ほんのり心が温かくなるような…そんな感じ。とりあえず『月の立つ林で』が予想外に良かったので、続けて青山美智子の他の作品も読んでみようと思う。