最近、本のアタリが滅法悪くて「駄目だ…本の神様に見放されてる」と憂鬱気味だったのだが、来たよ! 今年の読書生活を締めくくるに相応しい大当たりが。
聞いた事のない作家さんだし(後で調べてみたら芥川候補に挙がる作家さんだった)、よく知らない出版社だし…って事で全く期待していなかったのだけど予想を大きく上回る面白さだった。
老女さらい
認知症や介護の問題などを通して、家族のすがたをコミカルに描いた長篇小説。
「認知症老女の《にわか母親》になりすました主人公のやさしい執心を描いて、メルヘン仕立てともいえる精巧な物語である。一方、裏にひそむ宿縁をからめて、現実喪失の老女をめぐるさまざまな家族の姿を描いている。前むきの明るさを失わぬ行間のぬくもりと繊細さを評価したい。」
文芸評論家・大河内昭爾氏 推薦
草場書房HPより引用
感想
認知症の老人を描いた名作は、いくつかあるけれど、今回は切り口が全く新しくて面白かった。主人公が、定年退職後の独身女性という設定は、いまだかつて無かったんじゃなかろうか。
しかも、散歩の途中に出合った老女に懐かれて「いっそ誘拐したい」と思うだなんて。
私は今、結婚して家庭を持つ身であるけれども夫と出会うまでは「私はたぶん一生独身だろうなぁ」という予感があったので「1人で老いる」ということは「いつか自分の身に起こる身近なこと」として捉えていたので、主人公の心情にピタリと沿うことが出来た。
最初は「孤独な女と認知症の老人とのヒューマニズム溢れる、ちょいと切ない物語」だと思っていたのだが、ところがどっこい。いささか唐突な話の展開に面食らってしまった。
その老女と家族をめぐる「秘密」の物語へと引っ張っていく筆力は素晴らしいものだ。ネタバレになるので書かないでおくが、かなりスゴイ。
読む人によっては「そんな設定ある訳ないよ」と思うも知れないけれど、私は実感として「世の中には稀に起こりうる話だよなぁ」と納得してしまった。
こういうタイプの女の情念といのか、家の因習めいた話は、女性作家でなければ書けないと思う。
主人公の女性と、副主人公の老女とその一家以外にも、自分の親を介護する女性が出てくるのだけど、この人の描き方も素晴らしかった。あくまでも脇役なのだけど、主役を張ってもおかしくないほどの描き込みっぷり。丁寧な仕事に脱帽である。
敢えて文句を付けるとするなら、少し綺麗事過ぎるかな……というところだろうか。だが、これも許容範囲内。
「面白かった。とても良かった」と手放しで楽しませてもらった。こういう作品と出会うと「本を読んでいて良かった」と実感する。
今年のベスト3に入るハマリ本だった。
今後は、弓透子の作品を意識して追っていきたいと思えるほどに読み応えのある作品だった。