河﨑明子はここ数年、個人的に激推し作家として追いかけていた人だけど、正直今回はガッカリだった。
「河﨑明子は必ず直木賞を受賞する人だ」と確信していたけれど『締め殺しの樹』のようなとっ散らかった作品を書いているようでは無理だと思う。北海道を舞台にしてドラマティックに書けば良い…って物ではないでしょうに。
今回の感想はネタバレ込みの内容になるので、ネタバレNGの方はご遠慮ください。
締め殺しの樹
- 両親の顔を知らない主人公のミサエは北海道根室で生まれ、新潟で育った。
- 昭和10年、ミサエは10歳の時に元屯田兵の吉岡家に引き取られる形で根室に戻ったが吉岡家ではボロ雑巾のようにこき使われた。
- ミサエは吉岡家出入りの薬売りに見込まれて、札幌の薬問屋で奉公することになる。
- 戦後、ミサエは保健婦となって根室に戻り結婚するが、その生活は幸せとは言えなかった……
感想
結論から先に書くと胸くその悪くなるタイプの作品だった。主人公、ミサエの少女時代はそれなりに面白かっただけに「どうしてこうなったよ?」って気持ちで一杯。
主人公のミサエはNHK朝の連続テレビ小説か、そうでなければ『世界名作劇場』のヒロインのような不幸な境遇にあって、作中で「これでもか!」と言うほど次々と不幸が押し寄せてくる。
健気なヒロインに次々と押し寄せる不幸…って展開は小説の王道なので、アリと言えばアリだけど、それにしても不幸過ぎだったし、健気系ヒロインにしては主人公が陰気でやり切れない気持ちになってしまった。
そして何より腹立たしかったのは主人公の子ども達の扱い。いくらなんでも、あの描き方は酷過ぎた。
盛大にネタバレすると主人公の長女は小学生で自殺している。小学生を自殺させるからには、それ相応の描き込みが必要だと思うのだけど、あまりにも唐突だっし描き込みも足りていない。「もしかして、これって主人公を不幸にさせるだけの設定では?」と邪推してしまうほどだ。
……と言うか、短い尺にエピソードを詰め込み過ぎなのだと思う。
- 主人公孤児設定からの、色々な家にたらい回し的に引き取られる。
- たらい回しの末に他人に優しくされ勉強する。
- 勉強して保健婦になり、縁あって結婚。
- 結婚して幸せになったかと思いきや夫はクズ。
- 地域に馴染めず保健婦の仕事が上手くいかない。
- 長女自殺。
- 長女の自殺からの離婚と妊娠発覚。
- 離婚後に生まれた長男を里子に出す。
……と。単行本の280ページにここまで突っ込んで、さらに2部は里子に出した長男の物語。ちなみに長男の物語は200ページほど。長男のエピソードは割愛するけれど、これまた200ページにあれこもれも詰め込んであった。
河﨑明子は『締め殺しの樹』で何が描きたかったのだろう?
色々詰め込み過ぎて大事なポイントがぼやけてしまっていて、主人公の気持ちに寄り添うことが出来なかった。
河﨑明子…どうして、こんな雑な仕事しちゃったのよ?
勢いやパワーがあるのと仕事が雑なのは違うと思う。大河小説が書きたいなら、それ相応のボリュームが必要だし、単行本1冊に収めたいなら書ける容量は限られている。『締め殺しの樹』は目算を見誤ったとしか思えない。
今まで追ってきた作家さんなので、とりあえず次の作品に期待したい。