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サード・キッチン 白尾悠 河出書房新社

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白尾悠は初挑戦の作家さん。予備知識ゼロだったのだけど『サード・キッチン』と言う題名と、楽しげに食事をする人達の表紙絵を観て「様々な人種の人立ちが集う楽しい食堂の話かな?」と思って手に取ったのだけど、予想外に真面目な作品でビックリしてしまった。

主人公はアメリカの大学に留学した19歳の女の子。アメリカで自由なキャンパスライフ…みたいなウェイ系の話かと思いきや、ウェイ要素はまったくなくて、それどころは物語のテーマは「人種差別」なんて言う重いものだった。

正直、日本人の私には難しいテーマだったけれど、読み応えのある作品で特に若い人に読んで欲しいと思った。

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サード・キッチン

ザックリとこんな内容
  • ヒロインの尚美は19歳。アメリカの大学に留学したが、英語が苦手で会話もままならず、友人もできずにいた。
  • 人間関係をあきらめ勉強だけに邁進していたある日、偶然知り合った隣室のアンドレアとともに、さまざまなマイノリティが集まる、学生食堂(サード・キッチン)に招かれる。
  • サード・キッチンで尚美は自分と向き合い「差別」と言うことについて深く考えるようになり……

感想

「アメリカに留学した女の子」なんて言うと、積極的でコミュ力が高くて…みたいなイメージを抱いてしまいがちだけど、主人公の尚美はどちらかと言うと引っ込み思案で非社交的なタイプ。日本では優秀な成績を収めていて、TOEFLだってしっかりクリアしているのだけど、アメリカの大学には馴染めずにいた。

尚美が大学に馴染めなかったのは言葉の壁が大きいのだけど、それ以上に彼女自身の性格や考え方に起因するところがあり、この作品の中で尚美は大きく成長ていく。

題名になっているサード・キッチンは、大学内にある学生達が運営する食堂で「アメリカの大学には菜食主義者達のための食堂」とか「ハラルの人達が主催する食堂」があるらしく、尚美が参加したのは「マイノリティの人達が集まる食堂」だった。

マイノリティと言うとあまりにもくくくりが大き過ぎる訳だけど、出身地だったり、性的志向だったり、経済的な格差だったりと色々。日本人の場合はアジア人(黄色人種)である…ってことでマイノリティに属するって感じ。

私は差別という問題に対して真剣に向き合ったことがなく、有吉佐和子の『非色』を読んで、自由の国だと思っていたアメリカは意外と自由じゃなかった…ってことに面食らったのだけど『非色』は第二次世界対戦直後の物語。この『サード・キッチン』は現代のアメリカを舞台にした作品なのだけど『非色』の時代から大きく進歩していないことに驚かされた。

尚美はサード・キッチンで様々な人と出会い、自分自身のなかにある差別意識に向き合い、人として成長していく。

特に引っ込み思案だった尚美の手を取って引張しだしてくれたアンドレアとの友情と、お互いの持つ国の歴史や不勉強から上手く付き合うことができなかったジウンとの関係が面白かった。

『サード・キッチン』はなんだかんだ言って小説なので「いい話」としてまとまっているけれけど、実際もっと根深くて難しいのだろうなぁ…とは思うものの、若者達が互いに分かりあいたいと努力する姿は感動的だった。

恥ずかしながら、私はこの作品に書かれている問題について知らないことの方が多かったので「物語を楽しむ」ってこと以上に「勉強になった」って部分が大きかった。

面白い作品…と言うよりも、勉強になった作品って感じだった。そして娘がもう少し成長して『サード・キッチン』の内容を理解できる年頃になったら、勧めたいと思う。

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