河﨑明子は私が大注目している推し作家。必ず直木賞を取る人だと信じていている。北
『颶風の王』でデビューして以降、なんだかんだと北海道をテーマにした作品を書き続けていたけれど『鳩護』では北海道を離れている。
物語の舞台は東京。主人公はどこにでもいそうな27歳の独身OL。
世の中には東京で働くOLを主人公にした作品なんて掃いて捨てるほどあって、自分探しをしたり、爛れた恋に身を任せがちだけど『鳩護』のヒロインは自分探しもしないし、恋に狂ったりもしない。
河﨑明子の魅力は他の作家が書く物語に似ていない作品を書く…ってところにあると思う。
鳩護 河﨑明子
- 主人公の小森椿は雑誌編集部で働く27歳の独身OL。彼氏はおらず仕事はキツく、鬱屈した毎日を送っている。
- 1人暮らし椿のマンションのベランダに1羽の鳩がやってくる。
- 動物好き…と言う訳ではない椿だったが、いつしか鳩に愛着を感じるようになる。
- ある日、突然見知らぬ男から「お前は俺の次の『鳩護』になるんだ」と宣告されるのだが……
感想
まず最初にグッと来たのは仕事で鬱屈を抱えている主人公、椿の主張。
椿は働く独身女性。彼氏はおらず出会いもない。一生懸命頑張っているのに、既婚女性社員の尻ぬぐいをする毎日。昨今、育児休暇や時短勤務は女性の権利とされているし、それは正しいことだけど、その休暇や時短の補填をするのは独身女性である…と言う構図がリアル過ぎた。
私自身は既婚のパート主婦だけど、結婚が遅かったので椿の気持ちは痛いほど分かる。そして、私が元の仕事に戻ろうとしなかったのは「子持ち主婦だと以前と同じ働き方は出来ないし、そこまでして働くのもなんだかな…」と言う迷いがあったから。
いくら育児休暇や時短勤務が法律的に設定されても、なかなか体制は変わらないのだなぁ。私がフルタイム勤務を離れたのは13年も前なのに女性の労働環境は当時と変わっていないらしい。
……なんて言う私の昔話はさておき。
そんな椿のところに突然、鳩がやってくる。椿は特別に動物が好き…って訳じゃないけど、いつしか鳩に愛着を感じていく訳だけど、これは河﨑秋子が動物好きだからなのだと思う。
デビュー作の『颶風の王』は馬の話だし『肉弾』では熊が手でくるし『土に贖う』では蚕だのミンクだのが登場する。そして『鳩護』では鳩をテーマに持ってきた。
馬と熊と蚕とミンク。どれを取っても一般的な動物とは言えない。その分、読者はそれらの動物に対する知識欲もあるし「なるほどなぁ」とか「へぇっ、そうなんだ」的な楽しみを感じながら読むことが出来る。
だけど今回は鳩だ。誰でも知ってる。たぶんだけど「私は猛烈に鳩が好きです」みたいな人はほとんどいないと思う。主人公の椿も鳩が好き…って訳じゃなかった。
それなのに鳩に自分の時間を鳩に絡め取られていく。そして何故か鳩に対して愛情のようなものを感じてしまうのだ。でも分かる…読めば分かる。
この作品はネタバレをしたくないし、あらすじを深く書きたくないので、この辺で止めておくけれど「河﨑明子は小説の舞台が北海道じゃくなくても大丈夫な人だったんだ」と言う驚きがあった。
河﨑明子…目が離せない。次の作品も期待大だし、この人は必ず直木賞を取ると確信している。