日本の古い女性を書かせたら宮尾登美子の右にでる作家さんはいないんじゃないかと思う。
上手い……上手過ぎである。
「女」を書くことにコダワリを持った女性作家さんはたくさんおられるが、作家という仕事につく人は進歩的というか、アクティブな人が多い。
アクティブな女性が書くからなのか「型にはまらない女性主人公」を書くのは素晴らしくても、典型的な日本の女を書かせたらイマイチになってしまう作家さんが多いような気がする。
その点、宮尾登美子の描く「古い日本の女」は最高に上手い。
菊籬
義理という建前ゆえに保たれるその家の暮し。貰い子の菊を迎えた娘達の葛藤と女の哀れといじらしさを描く表題作と、処女作「村芝居」など8篇を収録した作品集。
苦界に流れた女たちを哀惜をこめて描く。
アマゾンより引用
感想
根性の座り方が違うというのだろうか……宮尾登美子の女性というのは、私達世代の女性とは一線を画しているような気がする。
時代が変わっても共通する普遍的な部分よりも、むしろ時代とともに変わっていった部分が鮮やかに描かれているような気がする。
耐え難きを耐え、忍び難きを忍びつつも、芯が強そうで、空恐ろしいような女性像。こういう女性が多かったのは私達の祖母くらいの年代までじゃないかと思われる。
毛色の違った小説を集めた短編集だったのだが、私が気に入ったのは、刺青に挑む芸者が主人公の『彫り物』。
刺青の話というと、谷崎潤一郎の『刺青』をまず思い浮かべてしまうが、同じ刺青話でも、まったく方向性が違っていて面白い。
刺青の魅力が溢れているという部分は同じだが、谷崎が「彫る側」視点で書いていたのに対して、この作品では「彫られる側」の視点で書かれているというところが大きく違う。
そして谷崎が抽象的で雰囲気のある作品に仕上げたのに対して、この作品では刺青をネタにして具体的なドラマを作り上げている。
山椒は小粒でピリリと辛いというような、ハッとさせられるラストで、素晴らしく面白かった。
この短編集は全般的に「そりゃぁ、酷い。むごい。あんまりだ」という話が多かった。「女って恐いなぁ」と思わず呟いてしまったほどだ。
どの作品も、それぞれに素晴らしく、短編集として読み応えのある1冊だと思った。赤丸つきでオススメしたい1冊である。