坂井希久子の作品を読むのは『ハーレーじじいの背中』以来で久しぶり。
『妻の終活』は題名が全てを語っていて、ガンに侵された老妻と老夫の物語。かなり面白かったのだけど、男性にはオススメ出来ない。
……と言うのも主人公である「夫」の描かれ方が酷いのだ。
「あの時代の男性あるある」ではあるのだけれど、自分が男性だったら嫌な気持ちになっちゃうかも知れない。
その反面、女性…特に60代以上の女性が読むと共感する部分が多い気がする。
妻の終活 坂井希久子
- 主人公一之瀬廉太郎(70歳)は定年まで勤めあげた製菓会社で嘱託として働いていた。
- 廉太郎は家事や子育ては妻杏子に任せきりで、典型的な亭主関白。
- ある日、廉太郎は妻から病院の付き添いを頼まれるがアッサリ断ってしまう。
- 帰宅後、妻は末期がんで余命1年と宣告されたと告げる。
- 家事はまったく出過ぎ、近所付き合いもしたことがなく、成人した娘達ともコミュニケーションが取れない廉太郎の奮闘記。
感想
最初にもチラッと書いたけれど、主人公廉太郎の描かれ方が本当に酷い。ひと言で言うと「絵に描いたような老害」ってところ。
- 縦の物を横にもしない亭主関白
- 見栄っ張りの仕事人間
- 子育ては妻に丸投げで子どもの事を理解していない
- 自分の価値観を子や孫に押し付ける
……もう書き出したらキリがないくらいのグス野郎だった。
特に、髪が抜けた祖母のために髪を伸ばしててヘアドネーションをしようとしている男の子の孫に向かって「女みたいに髪を伸ばしやがって」と怒鳴る場面は、ヘアドネーションを知らなかったとは言うものの最悪過ぎた。
そして同性の恋人がいる娘に対する態度も酷い。あの世代の人達が同性愛を理解できないってことは仕方ないとは思うものの、それにしてもな扱いだった。
作者である坂井希久子は主人公の廉太郎を「典型的な老害男性」として描きたかったと思うのだけど、流石にここまでフル装備だと「もう少しどうにかならなかったんですかね?」みたいな気持ちになってしまった。ラストのオチは特に。
私にしても夫にしても早くに父を亡くしているので団塊の世代を生きた男性と直接関わった事がない。主人公の廉太郎は「一昔前の男性の悪いところを全部突っ込んだ姿」なのだと思うものの、廉太郎のような男性がいるのも事実だ。
実際、ご近所も似たような話があった。夫婦2人暮らしで奥さんが先立たれた時に「あの奥さんは本当によく出来た人だったから旦那さんは家のことを全く出来ないと思うんだけど、大丈夫かしら?」と心配された男性がいた。
私からすると信じられないような話だけど彼は本当に何も出来ない人だったらしく、結局娘さんが実家に戻ってきて娘さん夫婦と同居しておられる。
私の世代でも「うちの夫は何もしない」と言う男性はいるものの、そこまで酷い人は減ってきている気がする。
私の夫は一人暮らしが長かったこともあり、家のことはひと通り出来るし、仲の良い奥さんと話していても「基本的に妻に家事を任せているけど、その気になればなんでも出来る」ってタイプの人が圧倒的に多い。
『妻の終活』で描かれている夫婦と現役子育て世代とでは、家族のあり方が違っているのは世代の違いなのだろうなぁ。
かつての日本では廉太郎のような男性と添い遂げた女性も多かったのだと思うし、今でも『妻の終活』を読んて「分かるわぁ」と共感する女性は多い気がする。
個人的に読み物としては好きなタイプの作品ではないけれど、需要のありそうな作品だと思う。
『妻の終活』ドラマ化したら面白いに違いない。NHKのちょっと遅いドラマ枠あたりで是非、ドラマ化して戴きたい。