河﨑明子は三浦綾子文学賞を受賞した『颶風の王』が良かったので「新作が出たら読みたい」と思っていたのだけど、新刊チェックが漏れていて、先日『土に贖う』が出ていることを知った。
ちなみに『土に贖う』の前にも既に1冊出ているらしい。
ちょっと奥さん! 凄い作家さん出てきちゃってる気がしますよ。
北海道には骨太作家を産み出す虎の穴的なところがあるんだろうか? 河崎秋子はもしかしたら数年前から推しまくっている桜木紫乃の上を行く作家さんになるかも知れない。
『土に贖う』は短編が7作収録されているのだけれど、ここ数年読んだ短編集の中ではダントツに良かった!
短編集って「この作品は好きだけど、こっちはイマイチ…」みたいな事になりがちだけど、ハズレ無しでビックリしている。
土に贖う 河﨑明子
- 北海道が舞台の短編小説集。7作品収録。
- 蚕を育てる家に育った少女を描く『蛹の家』
- ミンクを育てる若者を描いた『頚、冷える』
- ハッカ農場に生きる女を描いた『翠に蔓延る』
- 鳥を取って生きる男のハードな物語『南北海鳥異聞』
- 装鉄屋の家に生まれた少年が見た世界『うまにねむる』
- レンガ工場で働く男を描く『土に贖う』
- 現代の北海道に生きる若者の視点で描いた『温む骨』
- 『温む骨』以外の6作は明治から昭和まで、ラスト『温む骨』で現代に繋げてくる構成になっている。
感想
『土に贖う』は短編小説集…と言っても、ちゃんと大きなテーマが据えられている。
- 舞台が北海道であること
- 働く人であること
- 衰退していった産業がテーマであること
それぞれの物語は北海道ではあるものの、時代と場所が違っていて、少しずつ現代へと進んていく。
例えば『蛹の家』はカイコを飼う家に育った少女の物語なのだけど、読者は「養蚕業の家の物語」と聞いただけど、なんとなく結末はピンとくるものがあると思う。
養蚕業は一時期日本の大きな産業ではあったけれど、現在は衰退している。短編集『土に贖う』の中には、衰退してしまった産業が多く取り上げられている。養蚕業、ハッカの栽培、ミンクの毛皮、レンガ作り……
どの作品も衰退してしまった産業に携わった人達への温かい視線が感じられるのがとても良い。
そして作者、河﨑明子の女性らしい表現にも注目したい。
そんな女達のごく一部に対してでも、頼りない首筋を、細い肩を、華やかさを伴いながら確かに温めたり、小間物としてその生活に寄り添う毛皮は、どれだけ彼女たちを支えてやれるものだろう。 『頚、冷える』より引用
ミンクの毛皮が女に寄り添い、支える…なんて表現。男性作家さんの視点では書けないんじゃないかと思う。
どの作品にも女性らしい優しい目線が取り入りられているのが素晴らしい。
私。これから俄然、河﨑明子を推していきたい。襟を正した感じの文章も良いし、優しさが滲む文章を描くのに、よくよく読んでみると、けっこうエグい内容だったりするのも好みだ。
河﨑明子の次の作品が楽しみ過ぎるし、とりあえずまだ読んでいない『肉弾』を早急に読もうと思う。