図書館の新刊コーナーで見つけて、手に取った。
題名からして「若くして亡くなった実在の女性画家の物語なんだな」ってことが分かるのだけど、私は伝記小説大好き人間なので「読まねば!」と言う使命感に駆られてしまったのだ。
私は子どもの頃ポプラ社が出していた「子どもの伝記全集」で『ヘレン・ケラー』とか『野口英世』を読んで育った世代なので、伝記小説には並々ならぬ思い入れがあるのだ。
今回は「題名=ネタバレ」になっている上に、実在の人物の人生を描いた伝記小説なのでネタバレについては考慮しません。
空と湖水 夭折の画家三橋節子
- 実在した画家、三橋節子をモデルにして伝記小説。
- 三橋節子は梅原猛を驚嘆させるほどの独特の画風の画家。ガンで右腕を切断した後も、大作を描き続けた。
- 三橋節子の無名時代から死ぬまでを描く。
感想
「真実は小説より奇なり」と言うけれど、伝記小説は時として普通の小説よりも面白いことがある。
だけど、伝記小説は実在した人の人生をなぞっていくだけに「嘘を書いちゃ駄目」ってところが難しい。
それでも、伝記小説は書く人の力量によって、面白くなったり、ツマラナクなったりする。「匙加減」と「どこにポイントを置くか」ってところが、伝記小説の肝になる。
『空と湖水 夭折の画家三橋節子』の場合、「夭折の画家」と副題をつけて「画家」であることをアピールしてくるのだから、画を描くことしか出来ない画家の業とか、そういうところをメインに据えてくるのかと予想。
しかし、予想とはぜんぜん違う方向で描かれていて驚いた。
主人公はお嬢様育ち(京都大学の教授の娘)の女性。奥手であるのと、親が立派過ぎるがゆえに男性から敬遠されて、恋愛や結婚が上手くいかず「親のことなんて気にしないぜ」ってタイプの男性と恋愛。
一般家庭(と言ってもどちらかと言うと貧乏)に嫁ぎ、夫や姑の助けを受けながら画を描く…ってところがザックリとした流れ。
……題名つけるの下手くそ過ぎやしないだろうか?
「女性が結婚、出産をしてもなお、好きな仕事を続けていく」と言うテーマは現代に通じるものがあるし、それはそれで興味深い作品だと思う。そう言った現代的な問題を絡めたいなら、それはそれとして書きようがあったと思う。
主人公の画家としての熱い思いよりも、夫婦愛や家族愛を丁寧に扱っている印象を受けた。
もちろん、絵画についても少しは触れられてはいるものの、アッサリ風味で物足りない。主人公の「描かずにはいられない情熱」がイマイチ伝わってこなかった、
そして波乱万丈の人生が作品として生かされていないのも残念。
お嬢様育ちの主人公が結婚。今までより貧しい暮らしに身を投じる…とか、それだけで与謝野晶子的なドラマティックな設定なのに、アッサリと通り一遍で流されている。
思うに。作者の植松三十里は真面目過ぎるのだと思う。
真面目過ぎる作風が悪いとは思わない。吉村昭だって、クソ真面目な作風で実話ベースのクソ真面目な話をドンドコ書いていたけれど、クソ真面目な感じがむしろ良かった。
- 画家の情熱
- 家族愛
- 夭折しちゃう悲劇的な要素
何もかも突っ込もうとして、大事な柱がブレてしまった気がする。
壁本とまでは言わないし、そこそこ読める作品だけど、面白味のない伝記小説だった。