私は今まで「南極に行きたい」と思ったことは1度もない。
『南極物語』を観て心熱くした世代だけど、あれは南極への憧れと言うより「犬の物語」と認識していた。言うなれば犬バトル漫画『銀牙』の延長線的な扱い。
少し前にブレイクした『南極料理人』にもハマることもなく、私にとって南極は「関係のない場所」でしかなかったのだけど2018年の冬に放送されていたアニメ『宇宙よりも遠い場所』を観てからと言うもの、南極が気になるようになってしまった。
『宇宙よりも遠い場所』は女子高生が南極に行く物語で夢中になって視聴していたのだけど、心のどこかで「女子高生が南極なんて行ける訳ない。あれはアニメだからね」と思っていた。
ところが、結婚して主婦になった女性が調理人として南極に行ったと言うのだから驚きだ。
『南極ではたらく』の作者、渡貫淳子さんはテレビ等で紹介されて話題になっていたようなのだけど、テレビに詳しくない私はその存在を知らなかった。
図書館で本の表紙を見た瞬間「読まねば!」と言う使命感に駆られて手に取った。
南極ではたらく
- 南極観測隊の調理退院の書いた南極エッセイ。
- 料理人の著者は結婚、出産後は職場を離れ、母として家事・育児に奮闘する日々を送っていた。が一念発起して南極観測隊の調理隊員にチャレンジ。3度目の挑戦合格する。
- 母親としては初の調理隊員として第57次南極地域観測隊に参加した。
- 著者はローソンで発売された『悪魔のおにぎり』の考案者でもある。
- 南極観測隊に挑戦する前のエピソード、南極での暮らし、帰国してからの生活を綴る。
感想
久しぶりに大当たりのエッセイだった。面白過ぎて一気読みしてしまった。
「仕事辞めて主婦になった女性が南極に行く」ってだけでも浪漫がある。
作者はプロの作家ではないので、プロの作家の書く上質なエッセイを求めている人にはオススメ出来ない。「これは体験談である」と言う前提で読んで戴きたい。
まず、作者である渡貫淳子の人柄に好感を持った。
結婚して子どものいる状態で「そうだ。南極に行こう!」と思っちゃう人だから、ものすごくガッツがある。だけど意識高い系の完璧超人かと言うと、そうでもないところに親近感を持った。
南極観測隊には女性の隊員もいるとのことだけど、やっぱり色々難しい部分があるのは想像がつく。調理人は2人組で仕事をするのだけど、作者の相棒は当然男性。
「女性であること」に対する引け目を感じつつ、相棒と上手くやっていく過程は同じ女性として読んでいてグッときた。
作者だけでなく相棒の調理人の人柄あってこそ、上手くいったのだと思う。
私自身、主婦になるまでは男性の多い職場で働いてただけに感じる部分が多かった。
そして南極についてのエピソードは「知識」として単純に面白い。
- 南極観測隊での生活
- 南極で使える食料や水の話
- 廃棄物を出さない工夫が必要な南極での料理
……等、自分の知らない世界について知るのは実に楽しい。専門書的な難しさがまったくなくて、分かりやすい文章と言葉で書かれているので、小学校高学年くらいのお子さんでも楽しめると思う。
この作品の中で私の心に1番響いたのはこの一節。
きれいごとと言われるかも知れませんが、南極での生活は思いやりで成り立っていました。
実際、作品を通して「隊員達の絆」や「南極での生活を全力で楽しむ姿勢」には感心させられた。
南極と言う特殊な環境で生きていくには助け合わないことにはやっていけないのだと思う。
『南極ではたらく』を読みながら私は「自分は家族や周囲の人たちと積極的に助け合おうと思っているだろうか?」と恥ずかしい気持ちになってしまった。
……と、こんな風に書くと意識高い系の面倒臭い本のように思ってしまうかも知れないけれど、読みやすく楽しい作品だった。
気楽に読めて元気になれる1冊だった。