読みやすく、上品な文章で、気持ちの良いエッセイ集だった。
創作の裏話などもあり、作者のファンとしては嬉しい1冊。
読書録には、ほとんど書いていないけれど、津村節子も「マイ・コンプリート作家」の1人で、一時は猿のように読み耽ったものだ。
このエッセイ週では私が特に気に入っている作品の裏話が登場していて、心トキメイテしまった。
女の引出し
書くことが何ものにも優先される作家の生活ではあるけれど、仕事や家庭の人間関係、日々の雑多な出来事から目をそらすことはできない。
心の引出しにしまってある、数々の思い。女の引出しのいくつかを開けてみれば…。厳しく、暖かく、楽しいエッセイ集。
アマゾンより引用
感想
作家である夫、吉村昭氏との生活が興味深かったし、家族のことを書いた話も、面白かった。
津村節子は賢い女房なのだろうなぁ。
なんでも良く出来て、気働きが出来て、頭も良くて……おおよそ隙の無い感じ。昔風の言葉を使うなら「女の鏡」のような人だけれど、人を包む大らかさや、まろやかさに欠けているようにも思う。
身近にも、こういう女性を知っているけれど、何かと損をしがちなんだなぁ……このテの人って。常に折り目正しいと言うか。
驚いたのは飼い犬の死にまつわる話。
娘に犬の死を見せたくなくて、安楽死させる…って話がサラリと書かれていたのには仰天してしまった。しかも何匹も。
獣医から釘を刺されて「間違っていたのかも…」みたいなオチになってはいたものの、サラリとやってのけていたってところが吃驚である。
……まぁ、生死感は人それぞれなので、とやかく言う筋合いの事ではないのだけれど。流石にドン引きだった。
なにげに否定的なことばかり書いてしまったが、全体的には面白かったのだ。
取材旅行や、伝統工芸の話などは特に良かった。真面目で勉強熱心な人の書く「知識の小話」は読んでいて気持ちが良いものだ。
エキセントリックなタイプが多い女性作家さんの中で、津村節子のような人は稀有な存在だと思う。
今、昔風の女性を書かせたら彼女の右に出る人はいないだろうなぁ……ってことを改めて思った1冊だった。