江國版をイマイチ好きになれなかったので、ノリ気ではなかったのだが赤と青が一対になって出来たコラボレーション作品なので、やっぱり読んでおかねばな……と手に取ってみたが、こちらはけっこう楽しめた。
江國主人公が「変質したが変化しない人」だとすれば、こちらの主人公は「変化したが変質しない人」なのだと思う。その辺がツボだった。
冷静と情熱のあいだ Blu
あのとき交わした、たわいもない約束。10年たった今、君はまだ覚えているだろうか。やりがいのある仕事と大切な人。今の僕はそれなりに幸せに生きているつもりだった。だけど、どうしても忘れられない人、あおいが、心の奥に眠っている。あの日、彼女は、僕の腕の中から永遠に失われてしまったはずなのに―。切ない愛の軌跡を男性の視点から描く、青の物語。
アマゾンより引用
感想
江國版で苦戦した「イタリア設定」だったが、この作品では、すんなり溶け込むことができた。
主人公の職業が私にとっては魅力的だったのだ。古い絵を現代に、そして未来へと繋ぐ「絵画修復師」という職業は、それだけでも「読んでみよう」と思ってしまう。
……要するに私は絵画が大好きだってだけのことなのだが。
主人公の悩みや成長過程と、その職業が良い感じでマッチしていたように思う。こりゃ上手すぎる。座布団十枚。
この職業の主人公が住む街はイタリアでないといけない。(イタリアに限らずヨーロッパならOKなのだが)主人公が日本に住んでいたら、こういうドラマは生まれなかっただろうと思う。
それに登場人物の世代がバラエティに富んでいたのも良かった。
そういえば辻仁成の作品は4~5冊読んでいるけれど、脇役の使い方が上手いように思う。
主人公以外の人物にも味わいがあると言うか。こっそりと活躍する高齢者の描写が素敵だし。主人公の祖父の役どころは、ちょっと素敵過ぎ。
当て馬役の芽美には同情してしまったが、彼女もまた強く生きていくだろうという予感がする。
ちゃんとしたオチがある訳ではないのだが、救いのある雰囲気が良かった。一応、2冊でワンセットということだが、まったく別物として読んだ方がいいと思った。