「嶽本野ばら作品って、ちょっと苦手かも」と言いつつ、今回もまた読んでしまった。
耽美な雰囲気は好きなのに、どこか越えられない一線があったのだが、この作品には、すんなり溶け込むことが出来た。
エミリー
“この残酷な世界に生み落とされたのは、きっと貴方に出逢う為だったのですよね”。少年と少女の困難で美しい生と性を描いて三島由紀夫賞候補となった表題作はじめ、アートとファッションへの美意識を核に咆哮する三つの愛の物語は、「うっとり読んでいると、破壊力抜群の言葉になぎ倒される」(解説より)。
孤高の乙女魂と、永遠の思春期を抱くすべての人に放つ、珠玉の恋愛小説集。
アマゾンより引用
感想
3篇の小説が収録されていて、そのうちの1つは嫌いなタイプだったのだが、表題作の『emily』は、今まで読んだ作品の中では地味な印象を受けたが、それでも気持ちよく読むことができた。
いじめられっこの少女と、同じくいじめられっこのゲイの少年が互いに気持ちを深めていく過程をロリータ論と、お洋服論を交えて描いていた。
いままでの作品では、鼻についた「ロリータ」だの「お洋服」だのが物語の邪魔をしない程度で生きているあたりがとても良かった。
物語に「いじめ」を使った小説は数多くあるが、道徳的過ぎたり、テーマが重過ぎたりして読んでいてゲンナリしてしまうことが多い。
しかし、この作品の中では「いじめ」を単なる出来事……あるいは通過点として描かれていた。
そして、いじめられる側である主人公達自身が「いじめ」と向き合っているというよりも、それを通して自分の生き方を見つめなおしているようなところがあった。
そのため、痛々しいながらも安心して読むことができた。
そんな形で物事に対峙していくなんて一種の夢物語だとは思うのだが「夢だっていいじゃないか」と思えたのは物語ゆえなのかも知れないが。
しかし私が1番気に入ったのは「少数派への優しさ」が全面に出ていたところである。
もともと嶽本野ばらの作品を苦手なのに読んでしまっていたのは「少数派であっても背筋を伸ばして生きる」主人公達に惹かれてのこと。
今回は、背筋を伸ばして生きられなかった人が強くなっていったところが今ままでの作品とは少し違うように思われた。1種の成長小説なのだと思う。
コアな「野ばらワールド」が好きな読者には物足りないだろう作品だったが私にとっては、ちょうどいい具合の作品だった。
中高生の頃に読んでいたらば、きっとハマっただろうと思う。
大人が読んでも楽しいかも知れないが、できることなら主人公達と同年齢の若い人に読んで欲しいと思う1冊だった。