谷村志穂と言うと私の中で恋愛小説の名手…と言うイメージが強いのだけど『半逆光』はガッツリと恋愛小説だった。
しかも21年前の夫の不倫を妻が発見するところから物語がスタートしている。自分が子育てに追われていた頃、夫は若い女性と不倫していた…だなんて、妙にリアルな設定で感心してしまった。
今回はネタバレを盛り込みつつ書くのでネタバレが苦手な方はご遠慮ください。
半逆光
- 香菜子は結婚してからずっと専業主婦として生きてきた。夫は雑誌の編集者。息子は就職して家を出たばかり。
- 息子の部屋を片付けていた香菜子はクローゼットの奥にしまわれたPCを開き、夫のメールを見つけてしまう。
- 夫のメールボックスには夫と女が親密に名前で呼び合い、2人が子供のように育てていた猫が死んでしまったなど、21年以上にわたるやりとりが書かれていた。
- しかも夫のフリん浮いては「不倫小説の傑作」とも評価された1冊の小説を出版していることが分かり……
感想
私。何度となく公言しているけれど不倫は許せない派だし、不倫小説は基本的に好きじゃない。だけど「好きじゃない」と言うのと「上手い」とか「流石」と思うのは別の話。『半逆光』は読み応えのある不倫小説だった。
まず物語は不倫された妻の視点からスタートする。私自身、結婚して夫と娘がいる身なので「21年前の夫の不倫」なんて見つけたら「ふざけんな!」と逆上するだろうし、熟年離婚まである。
「男ってズルイ。男って酷い」ってころからのスタート。そして不倫相手の女はどんなクズなのかと想像しながら物語が進んでいく。
不倫相手の女は、これもまたありがちな設定だけど銀座の女だった。お色気ムンムン…ってタイプじゃなくて軽く不思議ちゃん入ってる感じ。だからこそ余計にタチが悪い。しかも香菜子が子育てで1番忙しかった時期からはじまっている。
「慰謝料もらって、さっさと離婚しなよ」と思ったのは言うまでもない。
……と。ここで物語の視点は不倫相手に変わる。最初は不倫相手の性格等が腹立たしいやら憎らしいやら…って感じで読んでいたのだけど、当然ながら不倫相手にだって言い分はある。しかも気の毒な部分もあった。
妻である香菜子の視点で読んでいたのに「こうなってくると不倫相手も可愛そうだな…」と、何故か不倫相手の気持ちにも寄り添ってしまっていた。
要するに1番悪いのは男。だけど香菜子も不倫相手もそんな男を好きになっちゃったんだから、どうしようもない。
「恋愛とか夫婦(恋人)の関係って理屈じゃないんだな…」と言う恋愛小説の原点が上手く表現されていたと思う。
女性の心理が上手く描かれていたのも感心したし、モヤモヤするものの希望が持てるラストも良かった。感情を深く動かされラストまで一気に読み切ってしまった。
……と。なかなかに面白い作品だったけど、複数の相手と同時に付き合うヤツ(これは男性に限らない)はロクなもんじゃないな…と改めて思った。