「子無し独身の30代女性」を「負け犬」と定義し「負け犬」の生態を観察し「負け犬」の生き方や、今後の生活を考えるエッセイ。
なかなか面白くて電車の中で笑ってしまったほどだ。
だが読了してみての感想は「6割5分くらいは面白かったな」という印象。残りの3割5分は視野の狭さと、ひとりよがり感が強かった分だけ減点させてもらった……という感じ。
負け犬の遠吠え
嫁がず、産まず、この齢に。負け犬、今なお増殖中!
日本を揺るがしたベストセラーが文庫に! どんなに美人で仕事ができても、30代以上・未婚・子ナシは「女の負け犬」なのです!
鋭い分析と、ユーモア溢れる文章で、同世代の本音を描き出した超ベストセラー。
アマゾンより引用
感想
面白かったのは「私の生活を覗いたの?」というくらい「負け犬」の生態が自分のそれと重なっていたところ。
酒井順子の定義によると、負け犬は目先の楽しさばかりを追い求める傾向にあり、勝ち犬(既婚女性)は長期展望で、物事を見据える能力に長けているとのこと。
細かい判例がいちいち、なるほど納得。
私自身が負け犬なのも、私の周囲にやたらと負け犬が多いのも肯けたが、オスの負け犬の分析と、作者の持つ負け犬(女性)への偏ったイメージは、あまりにも酷いように思った。
オスの負け犬の代表に「2次元の物にしか恋できないオタク」を挙げていたが、オタク女としては、どうにも説得力に欠ける気がした。
酒井順子はオタク文化に通じていないのだろう。
オタクの祭典(通称、イベント)へ行ってみれば、そんな発想はできないと思うのだ。
なぜならイベントでの男女比は6:4くらいの割合で、女性の方が多いと思われる。だいたいからして、オスの負け犬は、オタクか、マザコンか、駄目男という発想はどうなんだろうなぁ。
そして、負け犬は収入も良く、仕事もできて、知的で、小綺麗で、人付き合いが上手い人が多い……と言う設定もイマイチ承服できない感じ。
負け犬の一員として思うに、収入も低く、仕事もたいしたことがなく、頭も悪く、見た目もイマイチで、人付き合いだって駄目な独身女性は、もしかすると負け犬未満ということだろうか。
思うに、この本は書店で平積みされている1400円のエッセイ本を「面白いかどうか分からないけど、とりあえず買ってみようかな」というノリで本を買ったり、巷で評判だし、アマゾンに注文してもいいかな……なんて人に向けて書かれたものなのだと思う。
なので、とても世界観が狭く定義も狭い。
そして女性の負け犬は男性の負け犬よりも優位である……というノリや、ゲイ・レズビアンに対してフレンドリーさをアピールしつつ、何気に冷ややかな視線で「仕方ないから付き合いはするけど、じつは好きじゃないのよね」というような排他的な雰囲気も好きになれなかった。
あれでは読者に対して「だから子供を産んだことのない独身女性は……」なんて印象を与えてしまうのではなかろうか。
面白い文章なだけに、なんだかもったいないような気がした。
作者は、この作品はラストで「負け犬」達にエールを送っているが、私もこの場所からエールを送ろう。
「負け犬」にさえなりえなかった、駄目駄目で、控えめで、ひっそり生きている独身者達に。負けっぱなしでもいい……ひそやかに、そして逞しく生きていきましょう…と。
どうでもいい話だが、私はこの本を新品で買ってしまったことに敗北感を感じてしまった。
我ながら、なかなかの負けっぷりだと思った1冊である。