カズオ・イシグロの作品は『日の名残り』を読んだきりで、今回は2冊目。
『日の名残り』は、ずっと前に読んでいるので読書録には書いていないけれど、とても好きな作品。
前知識無しで読んだので『日の名残り』を彷彿とさせるイギリスを舞台にした大人の小説だとばかり思っていたので、実際に読んでみてものすごく吃驚した。
今回はネタバレ全開で書くので、苦手な方はご遠慮ください。
わたしを離さないで
優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。
生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者だった。
キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度…。
彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく―
アマゾンより引用
感想
私はこの作品を読んで「ライトノベルと本格小説の違い」について深く考えさせられた。
この作品は大人が読むに足る本格小説だと思う。けれどネタとしてはライトノベルだのアニメや漫画に使われがちな……と言うか、よくあるネタだった。
主人公は寄宿舎のような場所で育った女性。その寄宿舎(ヘールシャム)で育てられた子供達は臓器提供用として生かされた存在で、ある程度育った時点で次々と臓器を提供させられていく。
彼らの存在意義や、当事者達の苦悩、特殊な環境で精一杯生きた若者の姿が作品の中で描かれていて、じっとりとまとわりついてくるような湿度の高い小説だった。
「あの『日の名残り』を書いた作家さんが、まさかこんな話を書くとは!」という驚きはあったけれど設定自体に目新しさは感じなかった。
設定自体はライトノベルやアニメや漫画ではありがちな話でしかない。しかし決して軽い物ではなく、じっくりと丁寧に読まなければならない重厚さがあった。
登場人物達の心の動きがとてもリアルだったのだ。
なんと言うのかなぁ。聖人もいなければ「いかにも」な感じのヒロインもヒーローもいない。作品の中にいたのは自分の置かれた場所で精一杯生き、悩む人間達だった。
だからこそ登場人物に寄り添って物語を読むことが出来たのだと思う。
読んで損の無い名作だと思う。だけど、好き嫌いを問われると個人的には微妙な感じ。
読後、もやもやした物が残ってしまって、どうにもスッキリしないのだ。それにしてもカズオ・イシグロは沢山の引き出しを持った作家さんなのだなぁ。ただただ吃驚させられた。