山口恵以子は『食堂のおばちゃん』シリーズ以降、「食べ物小説の人」って感じになっていたけれど、今回は久しぶりに食べ物ネタではない。
物語の舞台は政治家が談合するような一流料亭だけど、食べ物ネタはほとんどなくて、愛憎ミステリって感じだった。
夜の塩
ザックリとこんな内容
- 物語の舞台は昭和30年の東京。
- 主人公は名門私立女子校で英語教師。父が戦死した後、母親は主人公を育てるため『千代菊』という料亭で仲居をしていた。
- 主人公の結婚が決まった矢先、母親が旅先で年下の男と心中したの知らせを受ける。
- 母親の心中相手は商社の男で、鉄鋼会社との架空取引に関与したとして検察に召喚される寸前だった。
- 教師の職を追われ、婚約者からは婚約破棄された主人公は「自分の花嫁姿を見るのを楽しみにしていた母親が心中する訳がない」と、母親が働いていた料亭で仲居をしながら母親の死の真相に迫っていく。
感想
あらすじだけ書くと泥沼の愛憎劇みたいで面白そうに思えるのだけど、私には全く面白いと思えなかった。山口恵以子って、こんな雑な仕事をする人だったっけか?
主人公を含めて登場人物がやたら多いのに、誰一人魅力的に描けていないのがイケナイ。
主人公は「教職を追われた美貌の女性」って事なのだけど、主人公に関わる男性達は全員主人公を好きになっていくのが笑える。思わず「キャンディキャンディかよ!」と突っ込んでしまうレベルだ。
魔性の女系なら、出会う男達が全て主人公の虜になるのは構わないのだけど「元英語教師の仲居」って設定で、身持ちが固い風に書いているにも関わらず、謎のモテモテ設定なのがどうにもこうにも。
登場する男達が全て主人公の引き立て役になっていて、どこか馬鹿だったりするのも戴けない。本気で格好良い男を描いてくれないと、愛憎劇にハマれない。
「母親の死の真相を知りたい」と言うところから物語がはじまっていて、最後に真相は明かされるものの、恋愛小説のような締めくくり方になっている。
ミステリ小説だと思って読むとガッカリするので、ミステリ小説風の恋愛小説だと思って読んだ方が良い気がする。
山口恵以子は好きな作品もけっこうあるけど、最近ハズレ率が高いので、しばらく距離をおこうと心に決めた。
どうにもこうにも楽しめない1冊だった。