栗田有起の作品は嫌いじゃない。嫌いじゃないけど物足りない。
感覚とか、設定はすごく好みなのだけど1冊の読み物として評価するとなると、ちょっとなぁ……ってところが多い。
曖昧な書き方が作者の魅力なのだとは思うけれど、いま一歩痒いところに手が届かないのだ。
一時期、ハマっていた薄井ゆうじ作品の感性を女性化したら、こんな感じなのかなぁ……と思ったりする。
オテルモル
「悪夢は悪魔」の合言葉のもと運営される会員制地下ホテルで働きはじめた希里。
「最高の眠りと最良の夢」を提供すべく「誘眠顔」である彼女の奮闘が続く。
リハビリ施設に入院中の双子の妹に代わり、小学生の姪と、かつて恋人であった義理の弟とともに暮らす希里が働き始めたのをきっかけに、彼ら三人にも変化がみえてきたころ、妹の沙衣の退院が決まる。
直後、事件は起きてしまう―。
アマゾンより引用
感想
今回も設定だけは面白かった。なにしろ主人公は客に快適な睡眠を提供するためだけに存在するホテル『オテル・ド・モル・ドルモン・ビアン』で働く女性(しかも双子の姉)なのだ。
ホテルの設定だけでもドキドキしてしまうではないか。小川洋子とか好きな人なら、がぶり寄りだと思う。不思議感漂う文章がなんとも言えず素晴らしい。
問題なのは人間が置き去りになっているってことだろう。
せっかく双子とい魅惑的な設定を使っているにも係わらず、内面的な部分はライトノベル的な薄っぺらさでしか描かれていない。
双子の姉妹の間に横たわる問題も「そりゃないぜ…」と呟いてしまうほど、突拍子のないものだった。残念ながら少女漫画の粋を出ていないとしか言わざるを得ない。
芥川賞の候補にも挙がった作品とのことだが、芥川賞だなんて候補に挙がるだけでも、あんまりだと思った。
栗田有起の書く作品には共感できる部分もあれば「こりゃスゴイ!」と感じるところも多いだけに、バランスの悪さが残念でならない。
もう一歩踏み込んでくれたら、きっと大好きになるだろう予感はあるのだけれど。
しかしながら、作品としてはイマイチとしか言いようのない1冊だった。