東日本大震災による原発事故で「居住制限区域」に指定されていた地域で飼われていた牛達を集めて、被災した牛を活かそうとする牧場が舞台の物語。
おそらくモデルはあるのだろうけけど、作品はあくまでもフィクションだと思う。
東日本大震災後は「被災文学」と呼ばれる作品が続々と出版されたけれど、この作品はその中でも頑張っている部類だと思う。
聖地Cs
原発事故による居住制限区域内で被曝した牛たちを今も生かそうとする牧場で、ボランティアに来た女性が見たものは―「聖地Cs」。
非正規雇用で働く男性が「猫が苦しむ社会は、ヒトも苦しむ社会」だと切実に思うまでの日々を描いた「猫の香箱を死守する党」。現代社会の問題を真正面から捉えた二篇を収録。
アマゾンより引用
感想
作品自体を好き嫌いで評価しろと言われると「あまり好きじゃない」としか言えない。
テーマが重い上に、読後感も悪い。もっとも、こういうテーマを扱っていて「読後スッキリ」では、それはそれでオカシイ話なのだけど。
原発問題ってナイーブすぎて自分の意見を言うのが実に難しい。
そして私自身は被災していないだけに、何を言っても「安全なところにいて、そんな事言われてもな」ってところに行き着いてしまう。
作品の中に登場する牛の扱いだってそうだ。
「どうせ食用だから殺したっていいじゃない」という考えも間違いではないし「いやいや。人間の勝手でそんな事しちゃイカンでしょ」って考えも間違いではない。どんなに議論しても答えは出ないし、異なった意見が交わる事は無いと思う。
しかし、だからって「目を背けてもいいのか」というと、それも違うと思う。
私はこの作品の根底に流れる物には賛同出来ないけれど、被災文学としては素晴らしいと思う。こういうところに突っ込んでいくのも、文学が担っていくべき役割の一つじゃないかと思うのだ。
思想的に偏りはあるし、ちょっと自分に酔っちゃってる感が鼻につくし、読後も最悪ではあるけれど、ある意味において良い作品だと思った。