幼い頃、顔に負った火傷の痕のために引篭もりがちで暮らしてきた主人公と、乳癌の治療を拒み、故郷で死を受容しようとする叔母の物語。
物語の舞台は北陸の旧家。じめじめと湿っぽい日本を堪能したい人には、うってつけの作品だと思う。
青桐
乳癌にかかりながら、一切の医療をこばんで、叔母は逝った。
その死を受容する姿を見つめるうち、姪の心にあった叔母へのわだかまりが消えてゆく。そして、精神の浄化をおぼえる彼女におとずれたものは。
1本の青桐が繁る北陸の旧家での、滅びてゆく肉体と蘇る心の交叉を描く魂のドラマ。
アマゾンより引用
感想
「不治の病と死」は書き尽くされてきたテーマではあるけれど、かなり面白かった。
切り口が良かった…ということもあるだろうし、男を知らず、社会にも出ず、漫然と生きてきた女の陰に籠った情念がドロドロとして面白かったというところも大きい。
私には想像も出来ない世界だけれど、ひと昔、ふた昔前の日本(そこそこお金のある旧家限定)では、そういう生き方も可能だったのだろうなぁ。
もっとも、それが幸せかどうかは分からないけれど。
「火傷」の秘密を巡るお話だの、ヒロインの淡い恋心だの、読者を飽きさせないストーリー展開の上手さが際立っていた。
もっとも良かったのは、最大のテーマである「叔母の死」の描き方だと思う。
最初から、じっくりと引っ張っていたにも係わらず、非常にあっさりと描かれていて吃驚したと同時に「そうそう。人が死ぬときって、実際はこんな感じだよね」と共感を覚えてしまった。
人の死に立ち会ったことのある人なら、多少なりともピンとくる部分があるのではないだろうか。
それにしても、久しぶりに「女を描くのが上手い」と感じさせてくれる文章だった。
ちょっとした仕草や言葉の端々から「女ならでは」な感じが滲み出ていたように思う。
木崎さと子はちょっと年代が上の作家さんなので、いささか昔っぽい感じはあるけれど普遍的な表現として十二分に面白いと思う。
機会があれば、他の作品も読んでみたいと思わせてくれる1冊だった。