39歳のバツイチ女性が自分の母親の認知症と向き合う物語だった。
……と書くと、重たくて暗い話のように思われそうだけれど、よくある介護ネタを扱った小説とは趣の違っていた。
ヒロインはものすごく年下…なんと20歳の恋人がいいるのだ。
刺繍
39歳、バツイチ、子無し。うんと年下の恋人有り。わたしは大人だ、ひとりで頑張って生きよう。
そう思っていたのに、母に痴呆の兆しが。両親と自分と、そして年下の恋人と、という奇妙な共同生活が始まる。
アマゾンより引用
感想
ヒロインの恋人はフリーターで「年上の彼女のお母さんの介護をするアルバイト」として、一緒に暮らすようになる。
認知症を患った母親は、娘の恋人に恋をする。
ヒロインは分かっているのに2人に嫉妬したり、あるいは39歳という「立派な大人」であるにも関わらず「お母さんに甘えたい」という感覚にとらわれたりする。
主人公は「立派な大人」と言われる年齢だけど、内面的な部分は大人になりきれておらず、子供っぽく描かれている。
しかし「この人、馬鹿じゃない?」とは思わなかった。むしろ「大人になっても、そういう感情を抱いてしまうことって、あるよね」と共感してしまった。
もっとも、たいていの大人はそういう子供っぽい感情は自分の中に押し込んでしまうのだけど。
ヒロインの母親の痴呆が進んでいく過程はとてもリアルで読んでいて自分の亡父を思い出してしまったほどだ。
痴呆がすすみ、身体が弱っていって死んでいく……という過程は認知症を扱った小説ではお決まりのパターンだけれど、なんとも切なく哀しいものだ。
とても面白かったのだけど「ものすごく年下の恋人」の存在が、あまりにも都合が良すぎて正直なところ、のめり込むには至らなかった。
「年の差カップル」や「年の差のある恋」を否定する訳ではないけれど、綺麗じゃない部分はすべて目を瞑って、都合の良いことだけを並べたような印象を受けたのだ。
川上弘美の『センセイの鞄』を読んだときに感じた軽い嫌悪感と少し似ている。
認知症を扱った小説としては変化球ながらも面白いと思う。
川本晶子の作品を読むのは2冊目だが、1冊目に読んだ『マタニティドラゴン』にしてもこの作品にしても「ちょっと面白い何か」を秘めているように思う。
他の作品も是非、読んでみたいと思う。