『海と毒薬』は第二次世界大戦中にあった米軍捕虜の生体解剖事件もとにして書かれた小説である。
ネタがネタなだけに、かなりグロい。グロ過ぎると言っても過言ではない。「ものすごく酷いことを平気でやってしまう」というあたりが嫌な感じだ。
そして自分も同じ立場に立たされたら、きっとやってしまうだろうと思うと、情けなくもある。
海と毒薬
戦争末期の恐るべき出来事――九州の大学付属病院における米軍捕虜の生体解剖事件を小説化、著者の念頭から絶えて離れることのない問い「日本人とはいかなる人間か」を追究する。
解剖に参加した者は単なる異常者だったのか?
どんな倫理的真空がこのような残虐行為に駆りたてたのか?
神なき日本人の“罪の意識”の不在の無気味さを描き、今なお背筋を凍らせる問題作。
アマゾンより引用
感想
この作品を読んでいると自分を含めて「人間って嫌な奴ばかりだ」と思わずにはいられない。
「面白い」とか「面白くない」とか言う観点で見るならば、正直なところ「面白くない」類だと思う。
文章は鬱陶しいし、単調なので夢中になって読むような要素は1つもない。だからといって登場人物の心情にハマってしまうほどのものもないのだ。
だが、いい作品だとは思う。
読んで面白いというよりもむしろ「考えてみやがれ」とでもいうかのように問題点を突きつけられた……ということにあると思うのだ。
とにかく「考えさせられる」のひと言に尽きる。
余談だが、この作品は作者の初期の頃のものだが主人公の勝呂は、これ以降、数多くの作品に登場する。言うなれば手塚治虫のキャラクターを使いまわし術とよく似ているかも知れない。
そして、またどうでも良い話だが、ラストの一文は「勝呂にはできなかった。できなかった……」と「できなかった」を二度繰り返しているのだけど、遠藤周作は「大事な部分を2回繰り返す」という手法がお気に入りらしく、他の作品(月光のドミナ)でも見ることができる。
二度繰り返されると「これでもか」と胸に迫ってしまう……と思うのはファンの欲目だと思いつつ、けっこう好きである。
海と毒薬 遠藤周作 新潮文庫