原田マハは「美術館小説」と言うジャンルを確立したのではなかろうか?
原田マハは美術や美術館をテーマにした作品が多いのだけど、今回は題名からも分かるように安定の美術館ネタ。
今回はデトロイトで起こった実際の出来事が下敷きになっている。
デトロイト市が財政破綻してデトロイト美術館の美術品が売却の危機にあったと言う話は知っていたけれど、その出来事を下敷きにした物語。
デトロイト美術館の奇跡
何でもします。あの絵を、《画家の夫人》を守るためなら。
ゴッホにセザンヌ、ルノワール。綺羅星のようなコレクションを誇った美術館は、二〇一三年、市の財政難から存続の危機にさらされる。
市民の暮らしと前時代の遺物、どちらを選ぶべきなのか? 全米を巻き込んだ論争は、ある老人の切なる思いによって変わっていく――。
実話をもとに描かれる、ささやかで偉大な奇跡の物語。
アマゾンより引用
感想
短めの作品でアッっと言う間に読めてしまうのでガッツリした作品が読みたい時にはオススメしない。
しかし、無難に良いと言うか、爽やかに良いと言うか。2時間ドラマとか映画にしたら良いんじゃないかと思う。
私が原田マハの作品を読んだのは『カフーを待ちわびて』と言う作品(残念ながら読書禄はつけていない)なのだけど、その時も「映画にしたらいいと思う」と言う感想を持った覚えがある。
作品の描く物語は優等生的でちょっとした場面が鮮やかに描かれているのが良いと思う。
ボリューム的には物足りない感を否定できない作品なのだけど、この作品は『暗幕のゲルニカ』や『楽園のカンヴァス』と違い、美術館のキュレーター側からの視点ではなく、美術館と美術品を愛する一般市民の視点が入っているところに共感を持った。
美術館って特別な人が行く場所じゃないし、美術品は学歴や知識が無くたって楽しむ事が出来る。薀蓄も悪くはないけれど「なんか好き」と言う単純な気持ちがあれば、誰でも楽しめると思うのだ。
デトロイト美術館でキュレーターとして働いてきた男デトロイトで工員として働いてきた男。
立場の違う2人の男がデトロイト美術館を通じて心を通わせるところにグッっときた。友情物語と言う訳ではないのだけれど「好き」と言う気持ちは人を繋ぐ事が出来るのだな…と。
この作品はあくまでも創作だけど、美術館解体の危機にあったデトロイト美術館が存続出来るようになったのは本当にあった事だ。
美術館や絵画に興味がある人なら楽しめる作品だと思うし、美術館なんてとんと行かない人もこの作品を読んだ後は美術館に行ってみたくなると思う。
読後感の良く、万人受けする作品だと思う。