舞城王太郎初挑戦の作家さん。ブレイクしたのはずっと前のことだけど、今まで食わず嫌いしていた。
ペンネームから「なんかチャラそうで嫌だなぁ」と。ペンネームって意外と重要だと思う。この作品とは全く関係ないけれど、桜木紫乃も同じ理由が長らく読む気になれなかったのだ。
淵の王
俺は君を食べるし、食べたし、今も食べてるよ――。
魔に立ち向かい、往還する愛と祈り! 友達の部屋に現れた黒い影。屋根裏に広がる闇の穴。正体不明の真っ暗坊主。そして私は、存在しない存在。“魔” に立ち向かうあなたを、ずっと見つめていることしかできない。
最愛の人がこんなに近くにいたことに気づいたのは、すべてが無くなるほんの一瞬前だった……。集大成にして新たな幕開けを告げる舞城史上最強長篇!
アマゾンより引用
感想
実は食わず嫌いしていたくせに評判も作風も全く知らず、無印状態で作品に挑んだ。
この作品はちょっとホラー。普段、どんな作風なのかは知らないけれど、文章は軽めで読みやすい。
作者は1973年生まれとのこと。同世代のせいか、読んでいる本や漫画は分かる物が多くて、ちょっと通じるところがあった。
3章立てで1章ずつ主人公が変わる形式になっている。
私は2章の主人公の話が気に入った。漫画家の女性が主人公で彼女が中学生の頃から物語がはじまっている。作者は本や漫画が大好きなのだなぁ……って事がよく分かる作品で、共感させられる部分が多かった。
主人公は女性で作者の性別とは違うけれど、もしかしたら作者この作品の主人公に自分を投影しているのかも知れないな……となんとなく思った。
猛烈な集中力とか「書かずにいられない」情熱とか。2章の主人公は魅力的で素敵だ。
1章から3章を通しての感想は「怖くて理不尽な話だなぁ」って事。
「怖くて理不尽」と言うのはホラーの王道だと思う。そもそもホラーは理不尽でなければ成り立たない。
どこもかしこも理が通っちゃうと、それはホラーではなくミステリになってしまう。「細けぇこたぁいいんだよ」と言う気持ちを持って、ノリと勢いで読むタイプの作品だと思う。
私はけっこう面白く読んだのだけど、サブカルチャーの粋を出ていないのが残念だと思う。
例えば私の好きな2章には、主人公が好きな漫画の題名なんかが出てくるのだけど、大ヒットした『ワンピース』はともかくとして、漫画が好きな人でなければ分からない作品が多い。
なんとなく「作者の好きな物が理解できない人は断り」的な雰囲気がある気がする。もしかしたら、それこそが作者の持ち味なのかも知れないけれど。
ホラーだし、気持ち悪いし、読後感も悪いので万人受けではないと思う。そして特に季節感の無い作品ではあるけれど、どうせ読むならけだるい夏の午後に読んで戴きたい。