『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』はNHKでドラマ化し、2024年には韓国で映画化もされるとのこと。
主人公はろう者の家庭で育った聴者という設定。映画作品『コーダ あいのうた』のヒロインと同じ立場だ。ちなみにコーダとは「ろう者の家庭で育った聴者の子ども」と言う意味とのこと。
私は障害児支援施設で働いているものの聴覚障害の人とはほとんど接したことがないので『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』で描かれていた「ろう者の世界」は驚くことばかりだった。
デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士
- 仕事にも結婚に失敗した中年男・荒井尚人はアルバイトで生活を繋いでいたが、唯一つの技能を活かして手話通訳士となる。
- 荒井は今の恋人にも半ば心を閉ざしていた。
- 彼は両親がろう者、兄もろう者という家庭で育ち、ただ一人の聴者(ろう者の両親を持つ聴者の子供を”コーダ”という)として家族の「通訳者」であり続けてきたのだ。
- 荒井がろう者の法廷通訳を務めた時、荒井にボランティア女性が接近してきた。現在と過去、二つの事件の謎が交錯し……
感想
『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』を読むまで私は手話に種類がある…って事を知らなかった。日本人の使っている手話は「日本語を手で表現したもの」くらいの認識だったけれど、そんな単純なものではなかった…ってことが驚きだった。
作品の中で使われていた手話は「日本語対応手話」と「日本手話」の2つ。実際には「中間型手話」と言うものもあるみたい。主人公の荒井尚人はろう者の家庭で育っているのど日本語対応手話と日本手話の2つを使いこなせる…って設定だった。
『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』はどこを重きにおいて感想を書くかが難しい。
- コーダとして生きてきた主人公の葛藤
- 生きづらい世界で暮らすろう者の実情
- 新しい考え方における「ろう者」の定義
- 家族愛と犯罪
物語の中に色々な要素がみっしりと詰め込まれているので感想を書こうとすると「はて?どれについて書こうかな?」みたいなことになってしまう。全部書けば良さそうなものだけど、それだと大長編になってしまうすネタバレをしていく必要があるので、それは避けたい。
それにしても、よくこんなに沢山の要素を突っ込んだよなぁ…と感心する。沢山の要素を突っ込んだ小説って「もっとポイントを絞って書けば良いのに、詰め込み過ぎて1つ1つのエピソードが薄いよね」と感じことが多いのだけど『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』はどの要素も必要だったと思う。むしろどれが欠けても成立しなかったんじゃないかと。
ミステリ作品としてもそこそこ面白かったけれど、聴覚障害を持った人の世界の末端に触れることが出来たのが何より良かった。作者の丸山正樹は『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』以外にも聴覚障害をテーマにした作品を書いているようなで、他の作品も追々読んでみようと思う。