『百年の子』はAudibleファーストは2023年7月現在においてはアマゾンオーディブルでしか発売されていない。版元が小学館なので、そのうち紙媒体で出版されると思う。
出版不況が叫ばれているけれど、ここ最近は「Audibleファースト」なんて作品がチラホラ増えていて驚かされる。
この『百年の子』は小学館の学年誌を巡る物語。学年誌と言うと日本人なら誰もが1度は手に取った事があると思う。私も子どもの頃は『一年生』とか『二年生』を買ってもらっていた。学年誌から一般の漫画雑誌を買うよになったのは小学校の中学年くらいだった。
『百年の子』は戦争とか女性の生き方などが盛り込まれた作品だけど、ベースにはあるのは「子ども」なので男女とも楽しめる作品だと思う。
百年の子
- 人類の歴史は百万年。だが、子どもと女性の人権の歴史は、まだ百年に満たない…と言うところが作品の基本になっている。
- 物語の舞台は、令和と昭和の出版社(文林館)
- コロナ蔓延の社会で世の中も閉塞感と暗いムードの中、明日花は意に沿わない異動でやる気をなくしていた。
- 明日香は文林館が出版する児童向けの学年誌100年の歴史を調べるうちに、今は認知症になっている祖母が、戦中、学年誌の編集に関わっていたことを知る。
- 世界に例を見ない学年別学年誌百年の歴史は、子ども文化史を映す鏡でもあった。
- 「なぜ祖母は、これまでこのことを自分に話してくれなかったのか?」その秘密を紐解くうちに、明日花は、子どもの人権、文化、心と真剣に対峙し格闘する先人たちの姿を発見していく。
感想
『百年の子』めちゃめちゃ面白かった。Audibleファーストとか言ってないで、とっとと文庫本で出版して欲しい。
……と。私はものすごく面白いと感じた作品だったのだけど、学年誌にも子どもにも興味の無い人が読んだら面白くないのかも知れない。
物語に出てくる出版社は作中で文林館となっているけれど、ようは小学館のこと。小学館の『一年生』は春頃になるとテレビで「♪ピカピカの一年生」と言うフレーズと共にCMが流されていたものだけど、最近はテレビCMでも見掛けなくなった気がする。
物語のテーマが「百年の歴史を追う」と言うところなので、作中には小説や漫画が好きな人なら「そうそう。そうだったよね!」と頷いてしまうエピソードがギッシリ詰め込まれている。
例えば…だけど、林芙美子だったり手塚治虫だったり藤子不二雄のなども登場するのだ。
第二次世界大戦中の作家の生き方や編集者の苦悩が垣間見えたり「子ども達に良質な読み物を届けたい」という編集者の奮闘ぶりが見えたり。自分が当たり前のものとして楽しんでいた学年誌は多くの人の力によって成り立っていたのだなぁ…と胸が熱くなってしまった。
特に私の心に響いたのは「人類の歴史は百万年。だが、子どもと女性の人権の歴史は、まだ百年に満たない」と言う言葉。
「じゃあ百年前はどうだったんだよ? 日本では子どもは宝だと言われていたし人権だってあっただろう?」って思っちゃうのだけど、そもそも「子は宝」って発想は子どもは家の財産…ってところに属していて「子ども個人の人権を認めるようになったのは百年くらいだよね」って話。
言われてみるとホントそれ。保育士試験の勉強をしてるい時にも子どもの権利関係のことは散々勉強した(されられた)けれど、今の感覚が通用するようになったのって人間の歴史の中では最近のことなのだ。
……などと七面倒臭いことを書いているけれど、そんな堅苦しいことはさておき。「やっぱり学年誌って良いよね!」みたいな軽い読み方をしても充分楽しめるし、お仕事小説として読むのもアリ。
『百年の子』は心に刻まれる名作…みたいな感じの作品ではないものの、素直に楽しめるタイプの作品なので、紙媒体として出版されたらAudibleユーザーでない人にも楽しんで戴きたいなぁ…と思う。