生まれてこの方ボクシングなんて全く興味が無かったけれど、テレビでプロボクサーを目指す女子高校生のドキュメンタリー番組を観て「ボクシングって、どんなスポーツ(格闘技)なんだろ?」と手に取ってみた。
『拳の先』は『空の拳』の続編とのこと。私は予備知識無しで手に取ったので、続編から読むことになってしまったけれど、それについては特に問題無し。続編から読んでも楽しむことができた。
拳の先
- 主人公はボクシング専門誌から文芸編集者となった那波田空也。
- 空也は、ふとしたことがキッカケでかつて通ったジムの花形選手タイガー立花と再会を果たす。
- 立花はライト級の日本タイトルを失うが、タイトル奪還するために練習を続けていた。
- そんな立花に立ちはだかる若き天才ボクサー岸本修斗…立花は岸本との実力の差を見せつけられ、リング上である行動に出て空也を失望させてしまう。
感想
『拳の先』は基本的には1つの物語だけど群像劇と言うか複数主人公制というか、何人かの人生のテーマが課題になっていて、なんとなく文学ちっくな作品だった。
私はボクシングなんてロクに見たことがない状態で読んだので素直に楽しむことができたのだけど、ボクシングに触れたことのある人が読んだら感想は変わってきたと思う。
『拳の先』は私にとって「とにかく先が読めなくてドキドキする物語』って感じだったのだけど、ボクシング界のお約束とか「あるあるネタ」を知っている人が読めば伏線とか、示唆されていることが分ったのかも知れない。だけど私は「どうして、こういう状況になってしまうのか?」ってことが予想できなかったので「えっ…この先、どうなっていくの?」と最後まで予想ができない状態で読み進めることができた。
スボーツ漫画とかスボーツ小説を書く人って凄いな…としみじみ思う。
私は50年の人生のうちに1度たりともスポーツに取り組んだことがなくて「ドッジボールも運動会も滅びてしまえばいい」と思っちゃうタイプの人間だけど、スポーツがテーマの漫画や小説は大好きだ。
私はボクシングを知らない人間だからこそ『拳の先』を楽しく読むことが出来たのかもしれない。
今回はネタバレを避けたいので核心に触れる部分は書かないけれど立花の抱えたいた物と題名になっている『拳の先』にある物については、ボクシングを知らない人間にとっては「なるほど!」と面白かった。そして、それはボクシングとは関係のない人間にも立ち塞がってくる類の物だった。
語り部でもある編集者の空也と空也がずっと追いかけているボクサーの立花。そして立花が所属するジムに通う小学生(作中で中学生になる)のノンちゃんの3人。3人はそれぞれに悩みと課題があり、3人の悩みと課題は作中で解決する形になっている。
空也も立花もノンちゃんも「ボクシング」と言うスポーツを通じて互いに影響しあっていて、それぞれの迷いに対する解決の道を見つけている。特にノンちゃんは年齢が低い…ってことあって、成長の幅が大きくて分かりやすかった。
『拳の先』はスポーツ(格闘技)がテーマの作品だし、そこそこボリュームがあって紆余曲折する物語なのでラストはさぞやスカッとさせてくれるのだろうな…と思っていたのだけれど、そうでもなかったのは意外だった。エンターテイメントに寄せることなく、現実に寄せた形に持っていったはの角田光代の作家としての矜持なのかも知れない。
『拳の先』を読んだからと言って「ボクシング凄いな!私も生でボクシング観てみたい」とまでは思わなかったけれど、私の中のボクシングのイメージが良くなったのは本当だ。「機会があればテレビでボクシングの試合を観てもいいかな」くらいには思ったし、それより何より一気読みしてしまうくらいには面白い作品だった。