湯本香樹実って「年寄」を書くのが劇的に上手い。そして年寄と子供の関係も素敵だ。
『夏の庭』『ポプラの秋』『西日の秋』は年寄物三部作と名づけたいくらいだ。
主人公と「てこじい」の関係は素敵だったが、てこじいと母親の関係は、いまひとつ夢見がち過ぎてハマれなかった。
夏の庭
町外れに暮らすひとりの老人をぼくらは「観察」し始めた。
生ける屍のような老人が死ぬ瞬間をこの目で見るために。夏休みを迎え、ぼくらの好奇心は日ごと高まるけれど、不思議と老人は元気になっていくようだ――。
いつしか少年たちの「観察」は、老人との深い交流へと姿を変え始めていたのだが……。
アマゾンより引用
感想
それにしても湯本香樹実の書く母親は微妙にズレがある気がしてならない。
そこそこ年を経て、子供を生んだ女性の取る行動としては、いささか子供じみている母親に中盤以降はウンザリさせられてしまった。物語は中盤以降から面白くなってくるので、丁度中和されて読めたのだけれど。
てこじいの人物像は、実際に生きている年寄っぽい感じがして面白かったが、少しインパクトに欠けていたように思う。
この作品が芥川賞の候補になったのは納得できるし、逃してしまったのもなんとなく納得。
あと、少し気になったのは主人公が女の子っぽかったこと。
少年としてかかれているのだけど、なんとなく少年っぽくないと言うか。伯父さんなんかも登場するのだけれど、なんとなくこの作品は「てこじい以外の男性は1人もいない」ような気がした。
大人向けに書かれた読み物と、児童文学の間には、見えない壁があるように思う。どちらが高尚とか、そういう意味ではなくて。
たとえば歪んだ性愛ものなどを「児童」の棚に並べるのは適切でない……というような。
「大人は大人の本。子供は子供の本を読むべし」とは思わないが、対象年齢ってはの、存在するように思う。最初から分かっていれば、そのつもりで読むのだけれど。
面白くないかというと、そうでもなかったのだが、いまいちパッとしないなぁ……という印象を受けた作品だった。
湯本香樹実は児童文学出身者だから「子供向け感」が抜けないのだろうか?
決して悪くはないけれど、大人の読み物にしては、やや物足りない気がした。