お久しぶりの山口恵以子作品。一時期、ガッツリとハマっていたけれど『食堂のおばちゃん』シリーズ以降、食べ物小説が多くなったこともあって手に取らなくなってしまった。
今回は古き良き日本映画の世界がテーマになっていると聞いて読んでみた次第。ちょっと昔の邦画が好きな人なら楽しく読める…かも知れない。正直、私はイマイチだったのだけど。
ライト・スタッフ
ザックリとこんな内容
- 映画会社の助監督試験に落ちた五堂顕は、ひょんなキッカケから照明部に配属される。
- 映画監督を目指していた顕だったが、いつしか照明の魅力に取り憑かれ照明技師としての腕をめきめきと上げていった。
- 数年後、顕は、恩人である女優・衣笠糸路に対して賞味期限切れだという周囲の心ない言葉に憤激し、ある方法を使って最高のライトを当てようとするが…
- 日本人にとって映画が一大娯楽であり、今の時代よりもずっと映画が栄えていた時代に生きる照明技師の半生を描く。
感想
この作品は「山口恵以子は群像劇が好きだなぁ」ってところに尽きる。映画の世界で生きている人の姿が生き生きと描かれていて、そこそこに面白かった。
……だだ「すごく面白かったか?」と言われると正直微妙。読みやすい文章でサクサク進むし、登場人物達はすべからく好感度が高くて気持ちの良い作品と言っても良いと思う。
だけど無難過ぎる。凸凹がなくて「コレだ」と言う見どころがない。
まず主人公がイマイチだったかな…って気がする。映画監督を夢見て映画界に飛び込んだのだけど、あっさり照明職に転向しているし、そもそも主人公の「映画愛」が感じられなかった。
「職業ってそんなものじゃない? 会社員になろうと思って会社員になった人は少ないよ」って話だけど、それを言ってしまうと「人間の職業と生き方とは?」みたいな話になってしまう。映画がメインの作品なのに映画愛が薄いのがどうにもこうにも。
だけど悪くない。悪くないけど器用貧乏と言うか、普通過ぎるくらい普通に収まってしまっているのが残念でならない。登場人物にしても文章にしても熱さや勢いが感じられないのだなぁ。
一時期はハマっていた作家さんだけにガッカリ感が凄かった。残念だけど山口恵以子の次の作品は読まなくてもいいかな…って思ってしまった。