巷では夢見がちな独身女性を「スイーツ」と読んだり、そんな女性達が好む小説を「スイーツ小説」などと言ったりすることがある。
特定の人達を馬鹿にするような言葉は決して誉められるようなことではないけれど、まぁ…でも分からなくはない。
しかし、私は思うのだ。ここ5、6年。スイーツ小説の影に隠れて、団塊オヤジ達のための「おっさんドリーム」とか「おっさんドリーム小説」だって、相当なものじゃないだろうか……と。
ひなた弁当
人員削減を行うことになった勤務先で、五十歳目前の芦溝良郎は、上司に騙され出向を受け入れる。紹介先の人材派遣会社では名前を登録されただけで、きつい仕事ばかりを紹介され長続きしない。
家族からはこれまで通りにしてくれと言われ、スーツ姿で朝から出ていく。やがて心の病を自ら疑うようになった頃、以前の派遣社員の新たな姿に励まされ、公園で見かけたのがドングリだった。
そこでの思いつきが、良郎の運命を大きく変えていく…。追いつめられた末に、本人も気づかなかった潜在能力を発揮し始め、逞しく変貌していく主人公を描いた感動の長編小説!
アマゾンより引用
感想
この作品は、まさに「おっさんドリーム小説」だった。ちゃんちゃら可笑しくて読んでいられない。
だけど、お話自体は「いい話」なので、声を大にして「ちゃんちゃら可笑しくて読んでいられない」とは言い難い雰囲気があるのも事実だ。
49歳でリストラされた男性が、野草やその辺の川で釣ってきた魚を料理して、作った弁当を売る弁当屋をはじめる話だった。数年前にブームを起こした『食堂かたつむり』のオッサン版と言ってもいいだろう。
テーマがテーマだし、巷の評判は良さそうなたのだけど私には受け付けられなかった。
働き蜂だったオヤジが、唐突に料理をして美味しいご飯が作ってしまうだなんて、どこの魔法使い? ってレベルだと思う。
「料理人なめんな!」どころか「主婦なめんな!」と思ってしまった。一朝一夕で美味しい料理を作るなんて設定は無理過ぎると思う。
そして、もっと無理過ぎると思ったのは「野草やその辺の川で釣ってきた魚で料理を作る」って設定。
浪漫溢れる趣向ではあるけれど、田舎でさえ「この川の魚は危ない」とか「この辺の海で釣った魚は地元の人間は食べないよ」とか言う話を聞く。
野草もしかり。残念だけど「その辺のものを採って食べられる生活」をちょっとした都会で実現するのは難しい。
小説なのだから夢を見たって良いと思う。
だけど、この作品に描かれていたのは「ふわふわとたよりない夢」の世界だった。残念ながら、否応無しに読者を夢に引きずり込むだけの力は無い。
リストラされた男性が再生していく物語というコンセプトは嫌いじゃない。
でも、ちょっと夢見がち過ぎたと思う。大人のファンタジーとして割り切って読むなら、気持ちの良い作品かも知れないけれど、私にはどうしても受け付け難い作品だった。