なんだか思っていた以上に面白くて、良い意味で裏切られてしまった。
基本姿勢は、前回読んだ『オルガニスト』と寸分変わらないように思う。負の方向に走って行く芸術家のお話。ここでも、また「音楽」が出てくる。
山之口洋はクラッシック好きな人なのだろうか・
「カストラート」だなんて、ちょいとマニアックなネタが入っていて、クラッシック好きとしては、なかなか面白かった。
完全演技者 トータル・パフォーマー
トータル・パフォーマー。それは、別の自分として生きるという選択。
ネモ、ソーホーに生きる伝説のトータル・パフォーマー。修はふとしたきっかけでネモのバンドに入り込んだ。私生活をひた隠し、ストリートにはけして素顔で出ない彼ら。
第に修は倒錯的世界にのめり込んでゆく。
アマゾンより引用
感想
人間には誰しも、多かれ少なかれ「死の衝動」とか「破滅への衝動」を持っているように思う。
その辺を上手い具合に料理してくれると、筋書きが大したことはなくても、面白く読めるから不思議だ。背徳的と言うか、退廃的と言うか、作品の中の空気が心地良かった。
絶賛して差し上げたいのは山々だけど、ちょっとだけ残念な部分が。
話の謎の部分にエイズという病気を持ってきているのだけれど、いまどきエイズの知識が皆無な人はいないと思うだけに「そりゃぁ、ないだろう」と突っ込まずにはいられなかった。
小説の設定として「まだエイズという病気が、それほど一般的では無かった」という事だったとしても、読み手は知っているのだから「謎」にするには安直過ぎる。
エイズの使い方以外は、良く出来た読み物だと思う。心に何かが残るタイプの話ではないけれど、エンターテイメント物としては面白い1冊だと思った。
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